弁理士法人レガート知財事務所 弁理士
峯 唯夫 先生
ZOOM事件
■ はじめに
コラムのネタを探していると、「米Zoom社に1億6千万円支払い命令 ズーム社「商標権侵害」訴え」(朝日新聞)という見出しに接しました。朝日新聞の他、複数の記事がサイトに掲載されています。4月24日の判決のようですが、裁判所ウエブサイトには掲載されていません。米Zoom社とは、オンライン会議システムを提供している’あの’ZOOMです。
■ 記事で紹介されている判決概要
「オンライン会議システム「Zoom」のロゴが自社のロゴと類似しており、商標権を侵害されたとして、日本の音響機器メーカー「ズーム」が米Zoom社にロゴの使用中止や賠償を求めた訴訟で、東京地裁(渋谷勝海裁判長)は24日、Zoom社に約1億6620万円の支払いを命じる判決を言い渡した。ロゴの使用中止は認めなかった。」
(「朝日新聞」https://digital.asahi.com/articles/ASV4S150MV4SUTIL02SM.html)
余談ですが、同じ日に「TRIPP TRAPP事件(第三次)」最高裁判決が出ています。
■ 登録商標など
両者の商標は以下の通りであり、原告登録商標の指定商品には「電子計算機用プログラム」を含んでいます。

米ZOOM社は、原告登録商標の出願前に、「電子計算機用プログラム」を指定商品とした以下の登録商標を保有していました(トンボ鉛筆から分割譲渡。)。

そうすると、原告登録商標は「ZOOM」消滅商標と併存していたことになります。併存登録が妥当だということであれば、原告登録商標と被告商標とは非類似にもなりそうです。このあたり、どのような攻防があったのか、判決文がないので分かりません。
■ 混同するか
裁判所は、「新型コロナウイルスの感染拡大を受けてZoomのオンライン会議が普及した結果、20年7月以降は、一般の利用者が両社を誤認・混同する恐れはなくなったと判断」し、20年7月以前は損害賠償を認めたものの、それ以降は損害賠償を認めず、差止めも認めませんでした。
商標権の「独占権」としての側面よりも「混同防止」に重きを置いた判断です。そもそも商標の「禁止権」は「混同防止のための緩衝地帯」として位置づけられているものであり、「混同しなければ差し止めはできない」という判断は自然であろうと思いますが、判決文で裁判所のロジックを確認したいところです。
■ むすび
海外の企業が日本に上陸するとき、その商標が日本の既存の商標権とバッティングすることは、珍しいことではありません。アップルが、スマホの商標「iPhon」をアイホン社の許諾の元で使用していることは有名です。米Zoom社も、トンボの商標の譲渡を受けて対応していたようです。この商標が不使用取消となった経緯を、筆者は理解できていません。
なお、この判決は、「他人の登録商標があっても使ってしまえ。有名になれば怖くない。」という世界を是認しているものではないと思います。




