商標・知財コラム:峯 唯夫 先生COLUMN

弁理士法人レガート知財事務所 弁理士
峯 唯夫 先生

商標「AFURI]・「雨降」を巡る争い

■ 大山阿夫利神社
関東総鎮護の霊峰として、江戸時代から多くの参詣者を集めいてる、神奈川県伊勢原市の大山阿夫利神社。紅葉真っ盛りの11月末、弁理士仲間と、阿夫利神社下社まで、歩いて登ってきました。
コマ参道と呼ばれるお土産や等が建ち並ぶ道を抜けて数十分歩くと、紅葉の大山寺。そこから更に急な石段を登ると、大山阿夫利神社です。

■ ビール「AFURI」と日本酒「雨降」
この境内に、ラーメン店「AFURI」があります。阿夫利山の麓で仕込んでいるというラーメンのスープを参詣者に振る舞っていますが、この会社(AFURI㈱)はビールも製造しています。筆者らは境内の別のお店で飲んできました。
他方、同じく伊勢原市の酒蔵・吉川醸造㈱は、2021年から、日本酒「雨降」を製造しています。
阿夫利神社は、「雨降神社」とも書かれるもので、両者ともに地元の霊峰「大山阿夫利神社」にちなんだネーミングを採用したということになります。両者の「ビール」「日本酒」に関する登録商標は以下の通りです(青枠が吉川醸造)。

■ AFURI㈱による商標権侵害訴訟
2023年、AFURI㈱は、登録商標①に基づき、吉川醸造が使用する商標(AFURI㈱のHPによると以下の写真)に対して、使用差止などを求める民事訴訟を提起しました。このとき吉川醸造が発表した声明は次のものです。

(吉川醸造の声明)
「AFURI株式会社からの提訴について」(2023.8.22)
当サイトにも記載の通り、「雨降(あふり)」銘柄は、丹沢大山の古名「あめふり(あふり)山」と、酒造の神を祀る近隣の大山阿夫利神社(以下「阿夫利神社」といいます)にちなんで命名したものであり、ラベル「雨降」の文字も阿夫利神社の神職に揮毫していただいたものです。
また、当社は「雨降」の読み方としてローマ字のAFURIと記載していること、またそもそも「阿夫利」「あふり」は地域・歴史・文化に根差した名称であることから、当社商標の使用はAFURI社の商標権を侵害するものではないと考えております。AFURI社にご理解を求めてきましたが、訴訟に至ったことは誠に残念です。(中略)
伊勢原市の施設にAFURI社に対する商標関連の苦情文が届いたと聞いたこと、また最近では「あふり」に関する名称を持つ事業を営む地元企業の代表からも不安を打ち明けられたことなどから、当社としても一定の情報開示をする責任があるのではないかと考えるに至りました。
https://kikkawa-jozo.com/blogs/news/sosho1

■ 4件の無効審判
(商標②に対する無効2022-890068号、令和5年(行ケ)第10122号)
AFURI㈱が商標①を引用商標として提起したもの。知財高裁は、称呼「アフリ」が生じる可能性を認めつつも、「称呼において共通となる余地があるとしても、外観及び観念の相違は称呼の共通性による印象を凌駕するものといえる。」と認定して非類似と判断しています。
(商標①に対する無効2023-890066号、令和7年(行ケ)第10038号)
吉川醸造が他人の登録商標「阿夫利大山」(登録第4651814)を引用商標として提起したもの。
審決は、引用商標の構成中の「阿夫利」の文字部分を取り出して観察することはできないとし、非類似と判断。訴訟では3条1項3号、4条1項7号、16号該当性のみを争い、裁判所はこれを否認しています。
(商標③に対する無効2023-890074号、商標⑤に対する無効2023-890076号)
吉川醸造が前掲の商標「阿夫利大山」を引用商標として提起したもの。
審決は、「両商標に共通する「阿夫利」の文字が一般に採択使用されることが想定し難い文字列であることも考慮すると、「阿夫利」の文字より直ちに特定の意味合いが生じないとしても、両商標に接する者に、特徴的な「阿夫利」の文字を有する商標であるとの共通の印象を与え、該文字から漠然と「阿夫利山」を暗示的に看取し得るものといえる。」等と判断し、「ビール」及び「日本酒」を含む第33類の全指定商品についての登録を無効とし、確定しています(2023-890076も同様)。

■ 侵害訴訟はどうなる
吉川醸造は、「AFURI」は地名であり識別力が無い等と主張していますが、この主張は商標①に対する無効審判、その取消訴訟、そして判定において否認されています。
商標②に対する無効審判、その審決取消訴訟において、商標②は商標①に類似しないと認定されていますが、商標②には欧文字「AFURI」が含まれていません。
審決取消訴訟において裁判所は、「当該商標が現に指定商品に使用されて「アフリ」と呼称されているとの原告主張に係る被告の取引の実情は、現時点において被告が商標を実際に使用している具体的な商品についての取引の実情にすぎないから、本件商標と引用商標の類否の判断に当たり考慮すべき一般的、恒常的な取引の実情とはいえない。」と認定していますが、侵害訴訟の対象商標には欧文字「AFURI」が含まれている上、侵害訴訟では「具体的な商品についての取引の実情」も考慮されるので、商標②が商標①と類似しないと判断された審決取消訴訟とは事情は異なります。

■ 地域産業と商標権
商標法3条1項3号には、何人も使用を欲する商標を開放する、という趣旨があります。阿夫利神社の周辺地域で商売をする者にとって、阿夫利神社にまつわる商標は「使用を欲する商標」といえるようにも思われます。商標権の効力と地域の実情との兼ね合いをどう図っていくか。本件の判決は、地域産業と商標権の関係を方向付ける意味合いを持つものとなりそうです。

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