商標・知財コラム:峯 唯夫 先生COLUMN

弁理士法人レガート知財事務所 弁理士
峯 唯夫 先生

「シン・ゴジラ」立体商標判決
(知財高判令和6年10月30日。令和6年(行ケ)第10047号 審決取消請求事件)

■ 事案の経緯

本願商標は、第28類を含む5区分を指定して出願され(商標出願2019-131821)、第28類の指定商品中「縫いぐるみ,アクションフィギュア,人形,その他のおもちゃ」との関係において識別力が否認されたので、これらの指定商品について分割出願され(商願2020-120003)、審判において請求が棄却されたものです。
 裁判所は、3条2項該当性を認め、審決を取り消しました。

■ 裁判所の認定

原告(出願人)は、「シン・ゴジラ」に加えて、昭和29年に始まった映画「ゴジラ」シリーズ(以下「旧ゴジラ」という。)の実績も、識別力獲得の資料とすべきことを主張し、被告(特許庁)は、両ゴジラの形状は同一性がなく資料とすべきでないと主張しました。
 裁判所は識別力を認めました。結論は、これでよいのだろうな、と思うのですが、3条2項の審査基準「出願商標と使用商標の立体的形状の特徴的部分が同一であり、当該特徴的部分以外の部分にわずかな違いが見られるにすぎない場合であって、当該特徴的部分が独立して自他商品・役務の識別標識として認識される場合(は本項の適用が認められる)。」との関係で、判決にコメントしたいと思います。

■ 基本的な形状が共通するが「実質的同一」ではない

裁判所は、「シン・ゴジラの立体的形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較すると、主な相違点として、頭部が小さくなり、前脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いは見てとれるものの、本件特徴(筆者註:初代ゴジラの特徴)を全て備える点を含め、その基本的な形状はほぼ踏襲されているといえる。」と認定しつつも、「シン・ゴジラの立体的形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、頭部が小さくなり、前脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いがあり、被告が主張するとおり、両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。」と判示しています。
 審査基準は、「出願商標と使用商標の立体的形状の特徴的部分が同一」であることを要求しているところ、初代ゴジラとシン・ゴジラとでは「基本的な形状はほぼ踏襲されている」ものの、「違いがあり」、「実質的同一」ではなく、審査基準にいう「立体的形状の特徴的部分が同一であり、当該特徴的部分以外の部分にわずかな違いが見られるにすぎない場合」は該当しないということのようである。

■ 実質的同一ではないが識別力獲得の資料になる

判決は続いて次のように判示しています。「しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべきである。」
 この部分が、筆者には理解できません。
 3条2項は、「出願商標」が使用された結果、「出願商標」が識別力を獲得することが要件であると理解されています。しかし、判決は、出願商標と「実質的に同一でない」シン・ゴジラ以外のゴジラの需要者の認識状況が、出願商標「シン・ゴジラ」の識別力獲得の資料になるというようです。
 出願商標「シン・ゴジラ」の識別力認定について判決は、「シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状として広く認識されていたことが優に認められる。」と述べ、「アンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、極めて高い認知度が示された。この調査の対象者の選定、質問方法等に特段の問題は見当たらず、その回答結果は、シン・ゴジラの立体的形状の著名性を示すものといえる。」と述べているところは、「シン・ゴジラ」とその他のゴジラを同一視しているとしか読めません。

■ むすび

裁判所は、各ゴジラに共通する基本的形状が識別力の源泉であり、「シン・ゴジラ」はその他のゴジラと「識別力の観点」からは実質的に同一であると考えたのではないでしょうか。そうではあるものの、3条2項の従前の解釈、及び審査基準により沿い「実質的同一とは認められない」と言ったがために、分かりにくい判決になったのではないかと思います。
 「シン・ゴジラ」はその他のゴジラと「識別力の観点」からは実質的に同一である、と認定した上で識別力の獲得を判断したならば、3条2項の解釈に新しい道が開けたことと思います。


(判決より引用)

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