商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

商標登録・意匠登録があるのに不競法・著作権での請求なのか
(イッセイミヤケの「バオバオ」)

■ バオバオ事件の概要
 本件は、原告商品を販売する株式会社イッセイミヤケとそのデザインをした株式会社三宅デザイン事務所が、被告商品の販売差止め、損害賠償などを請求し、請求がほぼ認容された事案です(東京地判 令和元年6月18日、平成29年(ワ)第31572号)。
 原告は、不正競争防止法2条1項1号と著作権を請求の原因とし、裁判所は著作物性を否認し、不競法に基づく請求を(株)イッセイミヤケについては概ね認容し、(株)ミヤケデザイン事務所については、自ら販売していないことを理由に請求は棄却しました。
 損害賠償額は7106万8000円(弁護士費用600万円を含む)。

■ 請求原因の選択
 通常、形態が近似した商品に対してクレームを付けようとする場合、登録されている権利を主張しようとします。すなわち、意匠権を主張できるか、立体商標の登録があれば商標権を主張できるか。そして、次の手段が不競法、最後の手段が著作権ということであろうと思います。
 本件では、訴訟が提起された平成29年、原告は「バオバオ」についての立体商標の登録があり、訴訟継続中には意匠登録もされています。
 上に記した通常の選択手法であれば、意匠権、商標権を請求の原因にすると思います。なぜ不競法。著作権なのか。原告は、意匠権、商標権の限界を感じたのだと思います。

■ 商標権の観点から
 原告商品の形状は、平成27(2015)年 5月 15日に、商標登録第5763495号として商標登録されています。

 文字商標を含まない立体商標が滅多に登録されないことは周知の通りですが、今よりも厳しかった時期に登録されているという事情は無視できません。活用したいと思うのが原告の気持ちでしょう。
 しかし、請求の原因とはしていない。
 正三角形のタイルを整然と並べた登録商標の形状と、種々の形状の三角形のタイルで構成された被告商品の形状は、「商標としては」類似しないと認めざるをえなかったのだろうと思います。

■ 意匠権の観点から
 筆者が確認したところでは、「バオバオ」に関する最初の意匠登録は意匠登録1585137号(出願日平成29年2月27日、登録日平成29年8月10日)であるようです。「バオバオ」は平成16年から販売されていた(裁判所認定)ところ、発売から遅れて、「バオバオ」とは類似しない意匠を出願したように思います。この登録意匠では三角形の模様が「タイル状ピース」であるとは認識できません。したがって、原告としては、被告商品の形態が原告の登録意匠に類似するとは主張できなかったのだろうと思います。

■ 不競法による救済
 判決は次のように判示しています。「中に荷物を入れた状態の原告商品と,被告商品の外観は,タイルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置するという本件特徴③ ´が需要者に印象付けられるのに対し,被告商品の複数種類の三角形及び四角形が不規則に配置されているとの特徴は,両商品を離隔的に観察した場合に判別し得る相違点とまではいうことができない。(略)以上によれば,原告商品の形態と被告商品の形態は,全体として類似するということができる。」
 下線部は、商品が「中身を入れた状態」で展示されていたことによるものです。意匠法も商標も、商品の形態自体を基礎として保護範囲が決められますが、不競法では市場を重視するので、このような判断になるのだろうと思います。

■ 損害額
 この判決で興味深いのが、損害額の算定です。価格が違う(9倍から23倍)のだから、被告商品がなくとも、被告が売った数だけ原告商品が売れたということはできない、という判事です。以下引用します(下線は筆者)。
 「原告商品と被告商品との「価格差は,他人の商品等表示を使用する不正競争における不正競争防止法5条1項に基づく損害賠償を請求する場面においては,侵害行為により譲渡された数量と侵害行為により被侵害者が譲渡することができなくなった数量との相当因果関係を阻害する事情に当たるというべきであり,本件については,その価格差を考慮し,被告商品の販売数量のうち,90%に相当する数量については,被告による不正競争行為がなくとも,原告イッセイミヤケが原告商品を「販売することができないとする事情」があったと認めるのが相当である。したがって,前記アの被告商品の譲渡数量のうち90%に相当する個数に応じた金額を控除した金額を,原告イッセイミヤケの損害額とすべきである。」

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
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