商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

識別力の弱い商標の管理
平成 30年 (ワ) 4954号 損害賠償請求事件
大阪地方裁判所 平成30年3月14日判決

今回は、標記事件を取り上げて、識別力の弱い商標の管理について考えてみたい。

■ 事案の概要
本件は、以下に示す原告登録商標(商標登録第5963932号)に基づいて、被告がコーヒーについて使用する、「TEA COFFEE」の文字を含む被告標章の使用差止めなどを求めたところ、裁判所は「TeaCoffee」の文字部分の識別力を否認し、請求を棄却した事案である。


[原告登録商標]
指定商品:第30類 茶,コーヒー,茶入りコーヒー,コーヒー豆

■ 識別力について
裁判所は、「複数の原材料を組み合わせた飲料の商品名等については、原材料を構成する物の名前を接続した語とする例が数多く見られる。そして、その中には、「ミルクコーヒー」、「Cafe au Lait」、「ミルクティー」、「レモ ンティー」等のように,既に一つの日本語として定着している語がある」ことなどを理由として、「「TeaCoffee」との表記に接した需要者、取引者が、それが複数の原材料を組み合わせた他の飲料の商品名等と同様に、「Tea」と「Coffee」 を組み合わせた飲料等を意味すると認識することに妨げはなく、そのように認識すると認めるのが相当である。」と認定し、「TeaCoffee」の識別力を否定した。

■ 原告の主張について
裁判所は、「原告商品が発売されるまでに,茶とコ ーヒーを組み合わせた飲料等について「TeaCoffee」という名前が使用された例があるとは認められない。したがって、「TeaCoffee」という名前が、茶とコーヒーを組み合わせた飲料等の普通名称として定着しているものでないことは,原告が主張するとおりである。」と認めつつも、以下のように説示し、使用による識別力の獲得も否定した。
「原告商標の文字部分は、それと同じ称呼がされ得る「teacoffee」、「TEACOFFEE」及び「ティーコーヒー」を含めて見ても、そもそも使用されている頻度が低い上に,使用されても、自他商品識別標識であると認識され得る別の表示(京茶珈琲)とともに使用されていたり、記述的表示であると認識され得ることにつながりかねない表示(TEA×COFFEE)とともに使用されていたりするなど,自他商品識別標識であるとは認識されにくい形で使用されてきたことが多いといえる。
以上の点を踏まえると,「TeaCoffee」の語が,原告による原告商品の販売に伴 って原告商品を指すものとして自他商品識別力を獲得するに至ったとは認められない。」

[原告使用標章の例]

■ 検討
原告は、本件登録商標における「TeaCoffee」の文字部分は識別力が弱いこと、そして図形要素がなければ登録が困難であったことは認識していたであろう。その中で「TeaCoffee」の文字部分単独で識別力を獲得するためには、少なくとも以下の努力をすべきであったと思われる。
ア.同じ態様で使用すること
イ.識別力のある要素と併せて使用しないこと
ウ.宣伝広告での露出度を高めること
本件では、「TeaCoffee」ではなく「TEA×COFFEE」という表示を使用することで、アが欠落し、「京茶珈琲」という文字や図形と併せて表示することで、イが欠落し、さらに裁判所の認定によれば宣伝広告においても使用頻度は低く、「TeaCoffee」の文字が統一的に使用されたり、自他商品識別標識と分かるように使用されていたものではないようであり、ウも欠落している。

識別力が弱く登録は困難であることを認識しつつも、万一他人が登録を受けてしまう事態を避けるために、図形などと抱き合わせて登録を受けることはしばしば経験することである。このような場合、登録の目的は「安全な使用」にあるが、独占したいという意思がある場合は、知財担当者において商標の使用態様を、サイトでの使用を含めてしっかりと管理し、識別力獲得のための努力をしなければならない。 本件は、その教訓となるものと考え、紹介した次第である。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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