商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

「列車愛称名」と「みどりの窓口」

■ 列車愛称名
「のぞみ」「はやぶさ」「かがやき」などの新幹線の列車をはじめとして、JR各社では優等列車の全てに「列車愛称名」(以下「愛称)」が付けられています。愛称によって、どの路線を走るどのような列車であるか、ということが示され、利用者としては同じ愛称であれば、同じような路線を走る列車であると理解できる便利なツールです。そしてJR各社は愛称を商標登録しています。
愛称の登場は1929年の「富士」「櫻」であり、翌年に「燕」、1937年に「鴎」が追加されました。特急のみであり、急行では1949年の「銀河」が最初です。愛称のついた列車は格の高い特別な列車であり、愛称付の列車に乗ることがステイタスとされた時代もありました。
その後愛称付の列車は増加し、愛称の数は、1967年に355種となり、その後整理され、国鉄末期の1985年には約130種まで減少しました。

■ 指定席の普及と愛称
国鉄で座席指定が開始されたのは1950年、全国に普及したのは1959年以降のことです。この当時は「台帳」に基づき手作業で指定席券が発行されていました。指定席のある列車が増加すると、利用客が愛称を正しく覚えていないことなどにより、発券業務に混乱が生じたようです。そこで、愛称の整理が図られ、「〇〇2号」のように、同じ性格の列車は同じ愛称を使用して「*号」とする手法となりました。
「みどりの窓口」が設置されたのは、大阪万博前の1970年。これにより、指定席券の即時発券が可能となりました。「みどりの窓口」での発券システムは、「愛称」で列車を特定する方式であり、列車に愛称がないと発券システムで対応することができません。このために、指定席のある列車では愛称が必須となり、当時長距離夜行鈍行として寝台車が連結されていた4本の列車に「からまつ」「南紀」「山陰」「ながさき」という愛称が付けられました。
また、「みどりの窓口」以前には、異なる列車(紀勢本線と房総線)に同じ愛称「くろしお」が使われていた例もありました、人間ならば混同しないでしょうが、コンピュータでは区別できません。そこで、「くろしお」は紀勢本線でのみ使用されることになりました。

■ 愛称の働き
愛称の起源は需要喚起のためだとされており、今も多くの観光列車では需要喚起を目的として付けられる愛称が多いように思われます。
他方、新幹線の愛称は、列車の種類を示す表示として活用されているように思えます。新幹線の開業時は「超特急・ひかり」「特急・こだま」というように「超特急」「特急」という区別がありましたが、1970年の山陽新幹線開業以来、姿を消しました。
代わりに使われているのが「のぞみ」「ひかり」「こだま」という愛称です。「のぞみ」という愛称で「最速列車」だとわかります。しかし、博多まで行くのか新大阪までか、ということは分かりません。サービスの「質」は理解できても「用途」は理解できない、ということです。

日本以外、愛称を多用している国はないようです。私鉄として一番座席指定特急を走らせている近鉄(数だけでなく、ルートも様々です。)にも愛称はありません。しかしながら、「みどりの窓口」のシステムに加えて、新幹線の愛称が「列車種別の表示」として機能している状況を考えると、愛称は日本の鉄道の文化として続いていくのだろうと思います。
(本稿は、「国鉄列車愛称名の興味あれこれ」、岩成正和、『鉄道ピクトリアル』2019年1月号を参考にしました。)

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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