首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生
最新判例紹介
著作権と量産可能な椅子形態 最高裁の判断
(令和7年(受)第356号 令和8年4月24日最高裁第二小法廷 「椅子形態上告事件」不正競争行為差止等請求事件(控訴審令和6年9月25日 知財高裁令和5年(ネ)第10111号 第一審令和5年9月28日 東京地裁令和3年(ワ)第31529号)
事案の概要 ⑴ 上告人ストッケ社は、上告人オプスヴィック社から許諾を得て、製品名を 「TRIPP TRAPP」とする子供用の椅子(「本件椅子」)を製造販売しており、本件椅子の世界累計販売台数は1400万台に上る。
⑵ 本件椅子の形状は、上記目録の「形状」欄記載のとおりである。
⑶ 被上告人は、原判決別紙被告製品目録記載の各製品を製造販売等している。
本件は、上告人らが、本件椅子は、上告人オプスヴィック社が著作権を有する著作物であり、上告人ストッケ社が独占的利用権に基づいて製造販売しているものであって、被上告人による上記各製品の製造販売等が本件椅子に係る上告人らの複製権や独占的利用権を侵害しているなどと主張し、被上告人に対し、損害賠償等 を求める事案である。
上告人の主張 所論は、本件椅子のように、量産されて日常生活の中で実用に供されること が予定されている物品(以下「量産実用品」という。)であっても、その形状等 (形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合をいう。以下同じ。)が創作的な表現であれば、美術の範囲に属するものとして著作物に当たるというべきであり、本件椅子は、その特徴的な形状が創作的な表現であることからすると、著作物に当たるにもかかわらず、これを否定した原審の判断には法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。
著作権法の解釈と結論 量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるというべきである。これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件椅子は、量産実用品であって、上告人らは、大要、約66度の略L字型を成して床面から立ち上がっている2本の脚を有し、当該2本の脚の間に座面板及び足置板が床面と平行に固定されるようになっている点において創作性が認められるから、本件椅子が著作物に当たると主張する。しかしながら、上記の点は、子供用の椅子としての機能に由来する構成である脚、座面板及び足置板の配置による形状が美感を起こさせるものであることを基礎付ける事情にすぎない。そして、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握するこ とができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。
意匠法との関係 我が国には、意匠法があり、量産実用品の形状等について、意匠登録出願をして所定の審査を経て設定の登録がされることで意匠権が発生する。(編注一部略)量産実用品の形状等について、意匠法に加えて著作権法により保護されることを広く認めた場合には、あえて費用等を投じて意匠登録を受けなくとも、同法によって、より長期間、広範に保護が受けられることとなる可能性があり、意匠法の存在意義を損なうおそれがある。また、量産実用品の形状等について広く著作権法の保護が及ぶとすると、著作者人格権により権利関係が複雑化して量産実用品の利用が妨げられたり、意匠権の存続期間満了後も長期間にわたって量産実用品の形状等を自由に利用することができなくなったりすることにもなりかねず、産業の発達に寄与するという意匠法の上記目的が阻害されるおそれもある。
まとめ(要約) 上告棄却 ①本件は、上告人ら(控訴人、原告)が、本件椅子は、上告人が著作権を有する著作物で、被上告人(被控訴人、被告)による上記各製品の製造販売等が本件椅子に係る上告人らの複製権や独占的利用権を侵害しているなどと主張し、被上告人に対し、損害賠償等を求めた事案で、控訴を棄却されて、上告したものであるが、最高裁は、以下のような判断をして、上告を斥けたものである。
➁ 著作物不該当 本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしか把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではなく、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。➁―2 機能に由来する形態 上告人は、本件椅子が著作物に当たると主張するが、子供用の椅子としての機能に由来する構成である脚、座面板及び足置板の配置による形状が美感を起こさせることを基礎付ける事情にすぎない。そして、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができず、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。➁―3 例外 本判決は、量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるという解釈も示した。
③ 意匠法上の保護との切り分け 量産実用品の形状等について、意匠法に加えて著作権法により保護されることを広く認めた場合には、著作権法によって、より長期間、広範に保護が受けられる可能性があり、意匠法の存在意義を損なうおそれがある。また、量産実用品の形状等について広く著作権法の保護が及ぶとすると、意匠権の存続期間満了後も長期間にわたって量産実用品の形状等を自由に利用することができなくなる可能性もあり、意匠法の目的が阻害されるおそれもあるとした。
なお、控訴審については、子供用椅子の形態について不正競争防止法2条1項1号で保護を求めたが棄却された事例として、TMfestaサイトで私見を紹介している。最高裁判決については、一般紙でも紹介された(讀賣26.4.25)。




