商標・知財コラム:工藤 莞司 先生COLUMN

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

最近の注目される商標関係裁判例 審決取消訴訟編

出願商標と同一でない使用例も使用による識別力取得の認定に加えた裁判例(令和6年10月30日 知財高裁令和6年(行ケ)第10047号 「ゴジラ人形」立体商標事件)
 「ゴジラ人形」に係る立体商標(右掲図は一部)について商標法3条2項の適用が認められた事例で、3条2項の適用、すなわち使用による識別力の取得が争われて、知財高裁は原告の提出証拠に基づいて、これを認めたものである。シン・ゴジラ映画をモデルにした本願に係る立体商標について、シリーズ映画の人気、観客動員数、そして当該フィギュア人形の宣伝広告、販売実績、これらに伴う高いアンケート結果から需要者の認識としての認定、判断である。この中で。知財高裁は、本願シン・ゴジラの立体的形状はそれ以前のゴジラ・キャラクターとは実質的同一とは認められないが、3条2項の需要者の認識の判断に際して、映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは妨げられないとした。ゴジラ・キャラクターの濃いイメージ・印象の継承からであろう。新しい解釈である。

指定商品9類「電子計算機」の意義、内容が争われ、商品「ペン型データ入力具」は電子計算機には含まれないとした裁判例(令和6年10月31日 知財高裁令和6年(行ケ)第10045号 ZOOM不使用取消審判事件)
 知財高裁も、原告主張の商品「ペン型データ入力具」は電子計算機には含まれないとして不使用取消し審決を支持した。指定商品9類「電子計算機」の意義、内容が争われたもので、 「ペン型データ入力具」(判決では「多機能ペンの尾栓」)は含まれないとして、審決が支持されたものである。現在では電子計算機が多くの商品の機能発揮に応用されているが、それが9類「電子計算機」自体に該当するとの認定は、分類等の解釈上も、当該商品の取引の実情からも困難と思われる。最高裁判例に、政令別表の区分の名称、当該類に属する例示役務、省令別表に例示された役務と本件役務との横並び、国際分類の類別表注釈及び特許庁編「類似商品・役務審査基準」を考慮して解釈するとしたものがあり(平成23年12月20日 最高裁平成21年(行ヒ)第217号 民集第65巻9号3568頁)、本判決でも引用している。

被告使用商標を剽窃したとして、商標法4条1項7号違反を認めた裁判例(令和7年1月16日 知財高裁令和6年(行ケ)第10068号 同旨令和7年1月16日 知財高裁令和6年(行ケ)第10067号 「マイフォーカス」事件)
 原告の本件商標は、被告使用商標を剽窃した登録として、公序良俗違反に当たり4条1項7号該当性が認められたものである。原告は偶然の一致として、わが国での被告使用以前からの採択、使用事実等を立証しようとしたが、裁判所に悉く斥けられた。また、19号が存在する現在では、7号適用の不適を主張したが、裁判所は、「前各号に掲げるものを除く」と規定されて7号に該当する場合には、19号の適用はないとの解釈を示し、矛盾はないとした。本件商標と被告使用商標は同一である。因みに、一時、知財高裁は19号が新設された平成8年以降、盗用や剽窃商標については、7号の適用を制限的に解していた(平成15年3月20日 東京高裁平成14年(行ケ)第403号 「ハレックス」事件)が、本件裁判例はすんなり7号適用を認めた。

「JPC」は著名な公益標章として、出願商標に商標法4条1項6号が適用された稀有な裁判例(令和7年2月4日 知財高裁令和6年(行ケ)第10060号 「JPCスポーツ教室」事件)
 本件事案は、本願商標「JPCスポーツ教室」について、日本パラリンピック委員会の略称である公益標章「JPC」を引用した4条1項6号の該当性が争われて、知財高裁もこれを認めたものである。6号事案は稀有なものであり、公益標章の著名性及び類似性が要件で、これらが肯定された。本件裁判例は、6号の趣旨の一つとして出所の混同を挙げ、著名性については、4条1項10号の周知性と同等と解し、そして類否判断においては、要部観察をしたものである。結論的には妥当としても、10号や11号等に準じた該当性の認定、判断は、公益規定で、商品・役務とは関係なく適用がある6号の趣旨や規定振りと離れたものである。先裁判例(平成21年5月28日 知財高裁平成20年行ケ第10351号)に依ったものと思われるが、妥当とは思われない(拙著「商標法の解釈と裁判例」改訂版111頁以下)。なお、「著名」の用語は8号にもあり、前掲本件解釈とは異なる(平成17年7月22日 最高裁平成16年(行ヒ)第343号)。

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