首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生
役務に係るウェブページ掲載行為と商標の使用
=第一審と控訴審で180度違った「Sushi Zanmai」事件=
昨年末の商標権侵害事件裁判例で、侵害を認容した第一審判決を、控訴審が取り消し、侵害を否定した裁判例に出合った。結論の逆転はよくある例だが、その理由が、争点の被告の本件ウェブページ掲載行為について、第一審は国内使用と認定、判断したのに対して、控訴審は国内使用には該当しないとしたからである(令和6年3月19日 東京地裁令和3年(ワ)第11358号 控訴審令和6年10月30日 知財高裁令和6年(ネ)第10031号)
事案の概要 商標権(「すしざんまい」30類すし 登録第5511447号外)を有している原告(被控訴人)が、被告(控訴人)が各ウェブページにおいて被告各表示「Sushi Zanmai」「寿司三昧・図」を掲載した本件ウェブページ掲載行為及びアカウントにプロフィール写真として被告表示2を掲載した行為について、これらの掲載行為は原告各商標権の侵害(商標法37条1号)となると主張して、各請求をした事案である。第一審は、原告の請求を、商標法36条1項に基づき本件各ウェブページの被告各表示の差止め及び削除を求める限度で、民法709条に基づき約600万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却した。被告が、敗訴部分を不服として控訴した事案で、控訴裁判所は、判決を取り消した。争点は、商標法2条3項8号該当性の有無である。
第一審の判断 本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表示機能及び品質保証機能を害したものといえる。そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとしても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行ったものと認められ、・・・被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。
控訴審の判断 当裁判所は、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商標として「使用」するものとはいえず、仮に商標としての使用等であると考えた場合でも、日本国内で提供される役務について使用されたものと認めることはできないから、原告の請求にはいずれも理由がないと判断する。本件ウェブサイトは、全体として、被告を含むダイショーグループが東南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そこで提供するための鮮度の高い良質な食材を日本から輸出する事業を紹介するものと認められるから、被告各表示を付した本件各ウェブページについても、本件すし店の「役務に関する広告」に当たると認めることはできない。以上によれば、被告各表示は、その態様に照らし、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けた本件各ウェブページの中で、被告の事業を紹介するために使用されているにすぎず、本件すし店を日本国内の需要者に対し広告する目的で使用されたものではない。したがって、本件ウェブページ掲載行為は、商標法2条3項8号に該当するということはできない。
コメント 被告のウェブページ掲載行為は国内向けである点については、両裁判所は同じ認定であるが、その内容等は、第一審は「すしを主とする飲食物の提供」の役務と認定したのに対し、控訴審では「東南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンで提供するため・・・食材を日本から輸出する事業を紹介するもの」と認定したため、結論が180度違ってしまった。前者は国内使用のすし提供役務の判断で商標法2条3項8号該当となったのに対し、後者の控訴審裁判所は輸出事業の紹介と認定しこれを国内提供に係る役務とは見ていない。このため、被告のウェブページ掲載行為は国内での使用には当たらないとなった。役務は、商品とは異なり、無形の提供行為であるため、特にウェブページ掲載行為については、その目的、内容、提供先等の把握が前提で、重要である。掲載表現は各自による。両裁判所で、掲載内容の把握、評価に相違があったのだ。
第一審は、日本における原告各商標の出所表示機能及び品質保証機能を害するとやや強引に結論を導いている。
他方、控訴審は、当審の判断は、2001年に・・・一般総会において採択された「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告において、インターネット上の標識の使用は、メンバー国で商業的効果を有する場合に限り、当該メンバー国における使用を構成する(共同勧告2条)とも整合すると補足した。