商標・知財コラム:工藤 莞司 先生COLUMN

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

駅名から見た混同防止表示雑考
=旧国名を冠した駅名の役割=

私は、特に夏季は乗り鉄を楽しむことが多い。以前から関心を持っていたが、通過する駅名のことで、先日、JR南武線を乗り鉄して、目の当たりにした。

旧国名を冠した駅名 登戸駅を過ぎて、武蔵溝ノ口、武蔵新城、武蔵中原、武蔵小杉と「武蔵・・・」を冠した駅名が続いている。武蔵は当地方の旧国名である。帰宅後調べたら、「小杉」駅は旧北陸本線、「中原」駅は長崎線、「溝口」駅は播但線に、先に旧国鉄の駅名が存在していたと分かり、「新城」も、我が故郷奥羽本線「新庄」駅の存在から、これらの駅名との差別化を図ったのだろう。同じく、有名なのは中央本線「武蔵小金井」と東北本線「小金井」駅との関係がある外、例えば、水郡線でも、茨城側では「常陸青柳」、「常陸大宮」、「常陸太子」、福島側では「磐城棚倉」、「磐城石川」等と多く見受けられる。私に言わせれば、商標法32条2項等に相当する混同防止表示ではなかろうか。

混同防止は? 私の故郷にも、「羽前長崎」(左沢線)や「羽前千歳」(奥羽本線)がある。なんで遠く離れた「長崎」や「千歳」と間違うことがあるのかと思っていた。その後都会へ出て、東京駅や大阪駅の窓口で、「長崎」一枚と言ったら、山形の片田舎長崎行きの切符に行き当たることはないだろう。やっぱり混同を防止し、差別化するのが旧国名表示の付加に違いないと気付いた。後に設置された駅のその名称に当該旧国名が付加されたのであろう。

混同防止表示請求
 商標法は、先使用権等が認められて商標権と併存する場合、互いに同一又は類似の商品・役務について同一又は類似の商標を使用するため、商標権者等に、先使用権者に対して、混同防止のための表示付与(例、地名や社名等)の請求をすることが出来る権限を認めている(32条2項、33条3項)。サービスマークの重複登録で(附則平成3年法律第65号9条)、クローズアップされたが、私の調べでは、裁判例は一件のみである。この事件では、商標権者が、相手方に「京都」の付加を求めたが、裁判所は、長年の陶芸活動で周知となっている被告商標に対して混同防止表示を付加することは不合理であるとして請求を棄却している(「真葛焼侵害事件」平成14年4月25日 東京高裁平成13年(ネ)第5322号 速報325-10757)。
 駅名のように旧国名の付加は一例であろうが、個別具体性が求められ、商品又役務の取引上の差別化は困難かもしれない。駅名でも、「東武池袋」や「西武池袋」のように社名(略称)でも差別化が図られている場合もある。

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