商標・知財コラム:工藤 莞司 先生COLUMN

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

現行商標法施行60年を振り返る
=学者の著書に見る商標制度発展の歴史=

最初の現行法解説書

喜寿を迎えるに年に至りそろそろと本棚を片付け始めたら、豊崎光衛著「工業所有権法」(法律学全集54昭和35年10月発行)があった。現行法施行当初の解説書で、学者としての著書は最初のものと思う(旧法時代も、末弘巌太郎「工業所有権法」(新法学全集昭和17年)だけと思われる。)。しかし、協同組合法と合わせて一冊のもので、当時の工業所有権法の地位や扱いを示している。学習院大教授であった豊崎先生は、商法を担当されて、不正競業法も研究されていたようである。昭和50年に至り、前掲「工業所有権法」[新版]が発刊され、単独本となった。途中で思い出した兼子一・染野義信「工業所有権法」(昭和35年6月発行)は別の棚にあった。

学会の設立

豊崎先生は、別冊ジュリスト「商標・商号/不正競争判例百選」(昭和42年)を執筆され、そこでは、ヤシカ化粧品事件(昭和41年8月30日 東京地裁昭和38年(ワ)第1415号)について、競争関係の必要性の観点から評釈され、裁判所が旧不正競争防止法6条を前提に被告商標権の行使を権利濫用としたのに対し、結論は妥当としながらも、別の法律構成を主張しておられた(前掲百選179頁)。不正競争防止法は、平成5年改正の現行法(平成5年法律第47号)では旧6条は削除されるに至った。

豊崎先生は、工業所有権法の研究の必要性を痛感されて、昭和49年工業所有権法学会を組織されて、初代理事長に就任された。そして、毎年シンポジュウムを開催し、学会年報の発行を継続されている。2016年での会員数は約500名のようで、手許には、1号(昭和53年発行)から40号迄の年報がある。先生の経歴とご功績は、追悼論文集「無体財産法と商事法の諸問題」(昭和56年)に纏められている。

知財法の講義拡大へ

豊崎先生の活動等に影響されて、紋谷暢男(「特許等管理」昭和41年)、渋谷達紀(「商標法の理論」1973年)、桑田三郎(「国際商標法の研究」昭和48年)、満田重昭(「不正競業法の研究」昭和60年)先生が商標法に関する著作を発表している。

平成に至ってからは、平成16年の新司法試験制度への移行に伴い、新設の法科大学院では、司法試験の選択科目となって知財法の講義が開始されたが、その前後から主要大学でも知財法の講義が行われていた。教員が足りず、私までが教壇に立った。この頃に、田村善之(「商標法概説」平成10年)、渋谷達紀(「知的財産法Ⅲ・商標法等」2005年)、石川昭外「商標法研究」(2008年)、土肥一史(「商標法の研究」2016年)先生の著作がある。

平成14年の政府のプロパテント政策の推進もあり、特許庁、裁判所でも審査、審判、裁判各事件が増進して、これら向けに、裁判官著を含めて、実務解説書が出されて、枚挙にいとまない。

私が商標法に関与して以来50年になり、背中の解説書から商標制度発展の一端を振り返ってみた。

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