商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

商標の類似判断と観察方法
―離隔観察について―

 商標の類似判断においては、商標の全体観察を原則とし、商標の構成等によっては、一部を分離して観察する分離乃至は要部観察が確立している。そして、観察の仕方としては、判断対象の商標を互いに並べて対比観察するのではなく、時と処を違えて観察する離隔観察をするということも確立し、審査基準をはじめ解説書でも、異論はない。
 それは、商品や役務提供を求める際、以前に求めた商品・役務と同じ出所の商品等を求める場合は、記憶にある商標と眼前の商標とを比較するからだとされている。このとき、需要者は商標が付された商品やパッケージ等を持参する例は、まずないと言ってよいだろう。

 最近、離隔観察の方法について考えてみた。一番わかりやすい例は、分離乃至は要部観察で、これは離隔観察を前提としている。つまり、結合商標中、需要者に特に注目される部分、すなわち、出所表示機能を有する部分(要部)を分離、抽出して観察する方法で、以前にその商標に接した需要者が要部を記憶しているという経験則からの方法と思われる。構成上分離される複数の要部がある商標について、その構成の一部を分離観察する方法も、同様の理由である。

 また、あの氷山印判例(昭和43年2月27日 最高裁昭和38年(行ツ)第110号)が類似判断基準の判示の中で、「外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等」とは、離隔観察を前提としている。
 そして、外観上の類似判断においては、審判決で、特に、「離隔観察をするときは」と、わざわざ言及する例も少なくない。その判断において、商標中の基本的構成要素を重視する一方で、構成上の仔細な部分の相違は捨象する方法は、明らかに離隔観察の手法である。
 観念上の類似判断においては、当該商標が示す意味・内容についての需要者の記憶を前提としているから、同じく離隔観察であることは、間違いないだろう。  称呼上の類似判断については、どうだろう。前掲「取引者に与える印象、記憶、連想等」については、外観上や観念上はともかく、称呼上の類似判断においては、ぴたっと来ないと思われる。特に、造語の文字商標間の類似判断については、である。
 古い権威のある解説書(三宅發士郎「日本商標法」昭和6年、網野誠「商標」初版6刷昭和44年等)も調べてみたが、離隔観察とは言っているが、その方法に言及した書は見当たらない。実務家にとっては研究課題と思うが、後輩に期待する他はない。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

メルマガ登録
工藤 莞司 先生
工藤 莞司 先生
バックナンバー
ページTOPへ