商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

周知・著名商標の保護とその実例
=「POLO HOME」事件 知財高裁、商標法4条1項15号適用審決を支持=

 「POLO HOME」事件裁判例
 先般、知財高裁から「POLO HOME」事案において、4条1項15号適用審決を支持した裁判例が出された(平成30年12月10日 知財高裁平成30年(行ケ)第10067号)。
出願商標(右図参照)に対して、ラルフローレン使用商標「Polo」、「ポロ」を引用して、指定商品被服等に使用したときは出所の混同の虞があるとして、4条1項15号該当を認めたものである。

 混同に係る証拠認定  結論の妥当性に加えて、判決の中で、「Polo」使用の中で、ラルフローレンでない者の使用において、ラルフローレン「Polo」使用商品と誤認を生じていると思われる例が多数認定されている。「 ・・・ウェブサイトでは,「非常に残念なことですが,多くの方がデパートの主力ブランドのpolo ralph laurenの偽物だと認識しているようです。ブランド名,ロゴマークは似ておりますが,実際は全く別のライセンスをキッチリ取得して生産されたブランドになります。」との記載(乙69の1)。 「・・・ウェブサイトに,「ラルフローレンのPOLOとは全くの別物。なのに,ラルフローレンだと思い込んだ人がメルカリで,ラルフローレンとして販売してトラブルになったりもしています。」との記載(乙70)等々、10例も、である。

 基準改正の経緯等
 20年前の平成11年、特許庁では、周知・著名商標の保護強化のために、審査基準を改正し、他人の周知・著名商標を一部に含む出願商標については、商標法4条1項11号又は15号適用を原則とした(現商標審査基準13版4条1項11号4.(2)②、15号2.(1))。当時の東京高裁で審決が取り消された「ノエルヴォーグ事件」裁判例(平成10年9月29日 東京高裁平成9年(行ケ)第278号)等を踏まえたもので、従来の構成重視の判断を改めようとしたものであった。しかし、庁内外で批判もあり、改正基準に従った審決は、東京高裁へ提訴され、その多くは「Polo」事案であった。
 東京高裁も、周知・著名商標の保護は当然として、審決を支持したが、「PALM SPRING POLO CLUB」事件裁判例においては、出所の混同の虞を否定し審決を取り消した。特許庁は上告し、最高裁はこれを容れて原判決を破棄し、原告の審決取消請求を棄却した(平成13年7月6日 最高裁平成12年(行ヒ)第172号)。

 基準改正の意義  本件「POLO HOME」事件は、前掲基準に従い、拒絶査定不服審判で拒絶査定を維持し、知財高裁でも支持されたもので、前掲最高裁判決が念頭にあったことは疑いないだろう。
久しぶりの「Polo」案件で、現在でも審査基準が遵守されていることを示している。そして、実際の取引においても、本件裁判例では、特に中古品市場において混同ないしは混乱を生じている例が証拠をもって認定され、改正基準の妥当性を裏付ける一例だろう。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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