商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

「赤帽」商標二事件の事案と結論
=「赤帽事件」裁判例の検証=

 少し前のことだが、侵害訴訟の「赤帽」商標事件があった。年末にリストを眺めて、審決取消訴訟の「赤帽」商標事件を思い出した。事案が相違するから、結論が違っても問題はないが、判断対象の「赤帽」商標の評価が180度違っている。以下、両裁判例を比較、検討したい。

○侵害訴訟「赤帽」商標事件(東京地裁 平成29年1月26日判決)
 原告登録商標「赤帽」(第4154926号外1件)、被告使用商標「舞子図形/京都赤帽」争点37条1号該当性 結論 両商標は非類似で非侵害
 東京地裁は、結合商標の「京都赤帽」については、審決取消訴訟「つつみのおひなっこや事件」判例(最高裁平成20年9月8日判決 裁判集民事228号561頁)を引用し、「京都赤帽」中の「赤帽」のみを重視することは出来ないとし、「赤帽」は普通名詞と言及している。

●審決取消訴訟「赤帽」商標事件(知財高裁 平成27年9月15日判決)
 原告引用商標「赤帽」(第4154926号外1件)、被告本件登録商標「舞子図形 舞子のマーク/京都赤帽」(第5506879号) 無効審判不成立審決の取消訴訟事件 争点4条1項15号該当性 結論 両商標間に係る役務においては混同の虞あり
 知財高裁は、原告引用商標について、使用役務への使用状況を認定して「赤帽」は周知著名性が高い商標と認定し、出所の混同の虞ありとした。

 侵害訴訟事件では、東京地裁は、「赤帽」自体について、普通名祠と捉えて分離観察を否定して、非類似の判断を導いている。原告主張・立証の原告商標の使用状況については採用していない。裁判所では侵害事件でも、「氷山印事件判例」(最高裁昭和43年2月27日判決 民集22巻2号399頁)を37条1号の商標の類似判断基準としており、本事件でも、結合商標の分離観察を否定した前掲「つつみのおひなっこや事件判例」を引用し、また両者間に「混同のないしはおそれが生じている事情はうかがわれない」との下りは、これらの判例の影響を示している。「赤帽」の普通名詞への言及は周知どころか識別性も弱いと言いたいのだろう。
 他方、審決取消訴訟事件では、審決は両商標非類似として4条1項11号及び15号該当を否定したが、知財高裁は、15号違反を取り上げて、原告主張・立証の使用状況から周知著名性を認定して、同号該当との結論を導いたのは、普通に行われる認定、判断である。

 37条1号の商標の類似については、裁判所は、4条1項11号(旧法2条1項9号)に係る審決取消訴訟の判例を判断基準とし、両者の類否判断例を混在して紹介、解説する実務書もあるが、私は、以前から審決取消訴訟と侵害訴訟とは事案等の相違から、基準は同じとするのは疑問で、裁判例は相互に先例とはならないとする立場である。また「つつみのおひなっこや事件判決」は、何らの類似判断基準を示してはいない。
 今回の侵害訴訟「赤帽」商標事件の理由付け、結論は、審決取消訴訟の判例を前提としたからとみることもでき、一考を要しよう。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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