商標・知財コラム:首都大学東京法科大学院元教授・講師 元弁理士 工藤 莞司 先生

商標の類似について
=登録商標の保護範囲で、実務上の要点=

 商標法は、指定商品・役務の同一又は類似を条件として、他人の先願登録商標と同一又は類似の商標は拒絶する旨(不登録事由・4条1項11号、15条1項1号)、また登録商標と同一又は類似の商標の無断使用は商標権の侵害として禁止する旨規定している(使用権・25条、禁止権・37条1号)。

類似範囲保護の理由 登録商標と同一又は類似の商標の使用(以下「指定商品・役務の同一又は類似」の条件は略)についての他人の使用は、その登録商標に係る業務上の信用の化体の妨げとなるからである。すなわち、他人による登録商標の類似範囲の使用は、登録商標に係る出所表示機能の発揮を妨げ、獲得した信用を稀釈、分散する。また類似して出所の混同の虞のある商標の使用は、需要者保護の観点からも、許されない(商標法1条)。このため、商標法は、登録商標は同一のみならず、その類似範囲をも保護範囲としている。

類似判断基準 商標の類似は、商標が有する外観、称呼又は観念を総合して判断される(特許庁「商標審査基準」4条1項11号1.)。これらからの判断は、分かりやすく、予測可能性が高く、そして安定性がある。判例は、指定商品・役務の取引の実情を考慮して出所の混同の虞から判断する(「氷山印事件」最高裁昭和43年2月27日 民集22巻2号399頁)としているが、特に未使用の場合は、外観、称呼又は観念上から判断する審査基準と異ならない。

類似判断の実務 しかし、外観、称呼又は観念上からとは言っても、その認定、判断が各指定商品・役務の取引者・需要者の認識(記憶、印象等)に係ることもあって、特に結合商標のように、簡単ではない例も少なくない。更に類似判断の対象たる既存の登録商標が180万件あり、その中で、審判、知財高裁迄争われる事案も多い。このため、審査基準も、精緻に定められているが、原則であり、応用例の判断は困難が伴うものも多いと言える。
 出願前の調査は重要で、審査基準及び主要な審判決例を踏まえて判断することになるが、先ずは「特許情報プラットフォーム」や調査会社を通じて調査し、事案に応じて専門家の意見を求めることも必要である。

首都大学東京法科大学院元教授・講師 元弁理士
工藤 莞司

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