一橋大学 名誉教授・弁護士 土肥 一史 先生
クルマの立体商標とモデルカー
クルマのことは詳しくないものの、第二次大戦以降、フォルクスワーゲンAG(以下、VW)を代表するクルマがビートル(カブトムシ)とよばれていることは承知している。VWは、このビートルをタイプ1とするとともに、タイプ2として1950年ワゴン車を製造した。このタイプ2は米国ではステーションワゴン、英国ではキャンパーと呼ばれたようだが、ドイツ国内ではBulli(ブルドッグ)と呼ばれ、長期に渡り人気を博した。
VWは、Bulliの全体形状について格別に保護を行い、商品分類12類の「地上、空中又は水上で輸送するための自動車又はその部品」と、同28類の「おもちゃ、玩具、特にモデルカー、玩具自動車」に商標登録を受けた(2006年7月12日登録・DE30627911)。
モデルカー企業は、モデルカーBulliのパッケージに「Officially Licensed by Volkswagen」と表示し、製造販売していた。ただ、立体商標についてもライセンスの対象であったかどうかははっきりしないところもあり、2012年末に上記ライセンス関係は終了した。その後は、上記表示の前に、
「Made in China」の表示を付加して、製造販売を継続した。この行為が上記商標権を侵害する行為として、VWは、モデルカーBulliの製造、販売、輸入の差止及び損害賠償を求めて訴えた。
第1審LG Hamburgは原告VWの請求を退けた。これに原告が控訴し、第2審のOLG HamburgはVWの請求を認め、28類のモデルカーに関する商標権侵害を認容した。これを受けて、被告のモデルカー企業が上告したところ、ドイツ最高裁は原判決を取り消し、OLG Hamburgに改めて審理を行うよう差し戻した。差戻審は玩具であるモデルカーの製造販売行為による商標権侵害は成立しないものとした。
モデルカーやモデルガンの製造・販売はビジネスモデルとして承認されていようが、そこではモデル車の原型を細部にわたり正確に縮小して再現する必要がある。結果として、VW車のフロントに付されている文字VWがサークル図形の中に置かれた著名な商標も、またBulliの全体形状も再現される。
本件の各裁判所の判決には興味深い商標法上の論点も多々あったが、ここでは、立体商標と文字ないしは図形商標との複合的な使用に接する取引者・需要者が当該形状に被告商品としての出所表示性を認めるか否かの問題について、ドイツ最高裁が、かかる複合商標では、形状を感得されれば、必然的に表示に接する取引者・需要者が当該商品の営業上の出所表示性をそこに感得することになるというものではない、としたことを挙げるにとどめる。




