商標・知財コラム:土肥 一史 先生COLUMN

一橋大学 名誉教授・弁護士 土肥 一史 先生

商標か、型式表示か

商標として使用されているのか、型式を表示しているのかの区別は、これらの標章が、当該標識が付された商品の出所を識別するためのものかどうかに係ることには異論はなかろう。そして、それを決するのは、当該標章に接する取引者・需要者にあることも疑いない。

ドイツの地方裁判所や控訴裁判所でも、登録商標と同一の文字列を型式表示として使用する行為に関して久しく争いがあった。ただ、いずれの判決においても、型式表示として使用されていても登録商標に係る権利を侵害するとされてきた(全ての判決に代えて、OLG Frankfurt 26. 10. 2017 - Hudson - WRP 2018, 989 )。ところが、2019年、ドイツ連邦最高裁判所は、同様に型式表示として登録商標と同一の文字列を使用した事案において、相次いで、原告登録商標権者の商標権侵害請求を退け、それまでの下級審と異なる判断を示している。

その最初の事案では、ドイツでの登録商標「SAM」と同一の文字列が、オンラインショップ「JUST4MEN.DE」を営む被告が販売する「EUREX BY BRAX」のズボンの型式表示に使用されていた。被告のオンラインショップでは、「EUREX BY BRAX」だけでなく、「JOOP」や「BOSS」などさまざまなブランドの衣類も販売されていた。

問題となった文字列「SAM」は、ジーンズの販売に関し商品説明の項目の中の1つとして使用されていた。他の項目としては、「DETAILS:Regular,Fit・・・」、「Farbe(色)」、「Taschen(ポケット)」、「Verschluss(ジッパー)」、「Obermaterial(表地素材)」などの項目に並んで、「MODELL:SAM」として表示されていた。紛争当時の画面ではないが、現在の被告のサイトの表示でもほぼ同様の並びとなっている。

型式表示は一般にアルファベットやアラビア数字が使用されることが多いようだが、ファッション産業、特に衣類の分野では、型式表示に文字列を使用することが少なくないと言われる。しかし、筆者にはこの領域について寡聞にして不明のため適切な例を挙げることができないが、登録商標「エルメス」のバッグでの「バーキン(BIRKIN)」や「ケリー(KELLY)」は当初は型式表示であったが、その後商標登録されたものかと想像する。

冒頭で述べたように、商標として使用されたものかどうかは、専ら、取引者・需要者の認識の如何にあるが、その認識を導く重要な要素は、当該商品との関係で使用された標識の位置や文字のロゴや大きさ等の態様がまず問題になろう。また、当該商品分野で認められる標章使用の特有な慣行の有無とともに、第1の商標と当該標識のそれぞれの周知度の如何による相関性もまた考慮することになろう。

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