商標・知財コラム:一橋大学名誉教授 弁護士 土肥 一史 先生

欧州登録商標「Iceland」

 外国の国旗やパリ条約同盟国及び世界貿易機関加盟国の紋章、その他の記章は、商標登録を受けることができない。商標法4条1項、2項が明確に定めている。日の丸や星条旗といった国旗は国家の尊厳に繋がるものであり、一般企業の独占の対象とすべきでない、ということのようだ。ところが、国名については、商標法上定めはない。国名はまさに当該国の尊厳それ自体を体現するともいい得るので、不思議といえば不思議である。

 商標審査基準「外国の地名等に関する商標について(41.103.01)」では、「国家名、国家名の略称、現存する国の旧国家名は、原則として商品の産地、販売地等を表すものとして拒絶する」と言い切っている。言い切ってはいるが、国家の尊厳ということとはかなり距離がある。他方、首都名や州名のような地名は、直接商品の産地、販売地等であることが辞書その他の資料に記載されていなくても、産地、販売地等に結びつき得る要因があれば、原則として産地、販売地等を表すものとして拒絶する、として柔軟な取扱いの余地を残している。

 欧州連合知的財産庁(EUIPO)や欧州裁判所において、ここ20年ほど議論になっている欧州登録商標に、文字商標「Iceland」がある。この文字商標は、2002年4月19日、英国のスーパーマーケット「Iceland Foods Ltd.」により商標登録出願され、2014年9月13日、商品分類29,30及び35類の商品及び役務について登録されている。

 

 これに対し、「ICELAND」政府とその意を受けた同国政府関係団体は、この登録商標の登録抹消を求めた結果、この文字商標は誤認を生ずるおそれがあるとして、EUIPOにより抹消決定がなされていた。商標権者からの取消請求がなされたものの、EUIPO異議大合議部では原決定が支持され、この支持決定を受けて、現在、この判断の行く末は欧州裁判所を舞台に争われている。

 そこでの争点は、欧州登録商標「ICELAND」が、欧州商標規則7条1項(c)、すなわち日本の商標法3条1項3号に相当する規定の適合性と、同規則7条1項(b)がもとめる識別性の有無であるが、この文字商標が識別性を獲得していることは、EU加盟27国において立証が求められるところから、欧州裁判所の結論は想像ができないわけではない。しかしながら、ここでの判断は欧州商標登録だけのものであり、英国国内の商標登録及び他の加盟国における国内商標登録は依然として残る。

一橋大学名誉教授 弁護士
土肥 一史

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