商標・知財コラム:土肥 一史 先生COLUMN

一橋大学 名誉教授・弁護士 土肥 一史 先生

オースターハーゼ(復活祭ウサギ)

金色の包装で、鈴の付いた赤いリボンを首に巻き、チョコンと座った姿のウサギ(https://www.lindt.de/ostern/Goldhasen)をご覧になった方もおいでだろう。ドイツでは極めて有名なチョコレート菓子だ。過去30年に5億個(羽?)以上が売られ、このウサギの市場占有率は2017年で40%を超える。日本でも東京・表参道にフラッグシップを6月初旬にオープンしたリンツの主力商品の1つであり、日本では「ゴールドバニー」と呼ぶらしい。ただ、リンツの本拠であるスイスやドイツ、オーストリアでは「オースターハーゼ(復活祭のウサギ)」と呼ばれている。

キリスト教国ではキリストが生まれる前夜クリスマス・イブは大変重要な日だが、そのキリストがゴルゴダの丘で処刑された後、復活した「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」もクリスマスに劣らず大変重要な日であることは変わらない。子供達の間では、この日の朝、オースターハーゼが庭にやってきて、赤、青、緑、黄色の色とりどりのタマゴを産んでいくと信じられている。うさぎはほ乳類だからタマゴを産まない、まして茹でタマゴなどと夢のないことを、よい子達は決して考えない。12月25日の朝、目を覚ますと枕元を見渡すのと同様、今年の4月4日の朝、よい子達は手籠を持って庭のあちこちの木々の根っこや草むらを探し回ったはずである。

ああ見えてうさぎは縄張りにはうるさいと聞くが、このウサギも争うことを全く厭わない。何度も裁判所の門をくぐっている。2004年には、指定商品をチョコレート菓子として共同体商標出願がされている。この座った姿のウサギは、OHIMから識別力を欠いているとされながら、欧州裁判所による確定まで10年の年月をかけている。

もっとも、リンツは、このウサギの立体形状と文字標識”Lindt GOLDHASE”との結合商標として、共同体商標登録を受けていた。この共同体商標に基づいて、リンツのオースターハーゼとよく似た別の事業者のウサギに対する侵害訴訟を提起し、最高裁まで争って、こちらでは原審の判断を覆す結果を納めている。この過程で、立体商標と文字商標の結合商標間の混同のおそれの判断基準が示されてもいる。

ことほど左様に、商品形状を立体商標として、他の事業者のオースターハーゼを市場から排除しようとしているリンツは、2017年5月、今度はドイツ特許庁に色彩ゴールド(パントーン10126C)を色彩商標として出願し、登録を受けた。これに対して、アルゴイ地方のコンフィセリエHが登録の抹消を求め、争っている。この最終的な判断が今月28日に示される予定である。本稿の提出後であるが、ニベアの青、ランゲンシャイトの黄、ミルカのリラ紫、ドイツの某金融機関の赤のように果たしてうまく商標登録を保持できるだろうか。

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