商標・知財コラム:一橋大学名誉教授 弁護士 土肥 一史 先生

商標と商品

 商標は,自己の商品(以下,商品には役務を含むことがある)を他人の商品から識別する目印(標章)である。したがって,自他商品識別機能を果たす目印でなければ商標とはなりえない。また,商品を識別するのであるから,商標は商品とは別個独立した存在でなければならない。

 立体商標は商品それ自体の形状を商標とする。商標は商品と一体となっているのにもかかわらず,である。このため,商標登録審査実務では,例外もあるが,使用によって商品形状それ自体に自他商品識別力が認められる場合に初めて商標登録を認めるのが一般である。

 ここでは,商品それ自体が商標として認められるということであるが,商標それ自体が初めから商品であることも可能だろうか。

 商標それ自体を商品とするというのは無体物である商標の性質と矛盾するようであるが,身近な例でいえばメルセデス・ベンツやフェラーリのエンブレム(ブラケット)をバッジにしたり,ゴルフのボールマークにしたりする場合を想定している。こうした場合,大抵はメルセデス・ベンツ社やフェラーリ社がこれらの商品に関連する分類を指定商品として商標登録を得ているので,商標権侵害の問題として多くは処理されよう。ところが,これらのエンブレムは補修部品でもあることが少なくない。そうすると,そこでの商標は補修部品の用途表示とされる可能性もあり,商標権の効力の制限との関係も出てくることになる。

 BMWはフロントとリアのボンネットにBMWブラケットを装着している。このブラケット,事故でフロントやリアが破損すると一緒に破損することは十分ありうる。BMWブラケットは,青と白のBMWの登録商標それ自体であり,これをボンネットに差し込んで使用される。Amazonでも,補修部品として6000円内外で販売もされている。

 このブラケットをサードパーティである被告が製造,販売そして輸出したことを,BMW社が咎めた事案がある。原告からの警告に応じて製造販売の停止の意思を表明したものの,情報開示請求,損害賠償及び在庫品の廃棄請求には被告が応じなかったため,BMW社がハンブルク連邦地裁に訴えた。連邦地裁及び連邦高裁ともに,原告の請求を認めたところから,被告が連邦最高裁判所に上告したが,これは退けられた。

 連邦最高裁判所の理由は,商標権を制限する用途表示であるためには,商標とは別個独立して商品が存在するときに,その用途を商標が表示する場合でなければならないが,本件はそのような場合ではない。被告のブラケットがBMW自動車の補修部品であることは認められるが,そこでの商標はこの補修部品の本質的な,専ら機能的な形状を構成する部分であるので,用途表示とはいえないというものであった。

 被告ブラケットでのBMW商標は,自動車に装着した後は,この自動車のブラケットの用途表示ではなくして,BMW自動車の出所表示として機能することになるので,やはり用途表示として被告の行為を容認することは難しいのかもしれないが,それは流通後の状況なので疑問がないとも言い難いようにも思うが、果たしてどのようにお考えだろうか。

一橋大学名誉教授 弁護士
土肥 一史

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