商標・知財コラム:峯 唯夫 先生COLUMN

弁理士法人レガート知財事務所 弁理士
峯 唯夫 先生

分離観察と周知性及び取引の実情
(知財高判令和6年3月27日・令和5年(行ケ)第10068号 審決取消請求事件)

■ はじめに

筆者は、初めて読む判決では、読む前に対象となる商標を見ます。本件での第一印象は「無理筋だな」でした。そして、判決に記されている審決の要旨を読むと、そうだよな、と納得。ところが、判決では「類似する」として審決取消。なんで?
本件の争点は、本件商標が引用商標との関係で、商標法4条1項11号又は15号に該当するか否かであり、具体的には、本件商標の構成中「O!Oi」部分の分離観察の是非です。本稿ではこの点の焦点を当てて記します。

■ 審決の判断

審決は、本件商標の構成中「O!Oi」部分の分離観察をすることなく、11号、15号に該当しないものと判断しています。
・4条1項11号該当性について
本件商標は、同じ書体、同じ大きさ及び等しい間隔で一連に横書きしてなるものである。本件商標は、特定の意味を有しない一種の造語として認識されるものであり、その構成文字に相応して「オーオイメイン」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。したがって、「マルイ」の称呼を生じ、原告らのブランドとしての「丸井(マルイ)のマーク」の観念を生じる引用商標とは、称呼・観念において類似しない。
そして、両商標の外観を比較すれば、欧文字と感嘆符を組み合わせてなる本件商標と、2つの丸と2本の縦棒を交互に表した図形又はそれを要部とする各引用商標とは、全体の構成が明らかに異なるから、容易に区別し得る。よって両商標は非類似であり11号に該当しない。
・4条1項15号該当性について
引用商標は需要者の間において広く認識されていたと認めることができ、独創性の程度が高く、また、本件商標の指定商品に、原告標章が使用される役務と類似する商品が含まれるとしても、本件商標と原告標章とは、全く別異の商標であって、類似性の程度は低い。よって、混同の恐れはなく15号には該当しない。

■ 裁判所の判断

判決は、「イ 本件商標の分離観察の可否」という項目を立て、「取引の実情」として、「被告が代表者を務めるファインドフォーム社は、その商品(被服、帽子及びかばん類)に「OIOI」、「OiOi」、「O!Oi」等の標章を付してこれらの商品を小売販売し、また、そのウェブサイトに「O!OiCOLLECTION」等の標章を付してこれらの商品の宣伝・広告をしているものと認められる。」と認定し、「本件商標の構成」として本件商標は、まとまりよく一体的に構成されているとしつつも、「MAIN」の語は、ひとまとまりの単語として強く認識されるというべきであるとした上で、「O!Oi」部分は、特定の意味合いを有しない一種の造語であり、それゆえに、平易な英単語のみからなるMAIN部分との対比において視覚的に目立つものである。そして、取引の実情を併せ考慮すると、O!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識としての印象を強く与えるものであると認めるのが相当である、と認定します。
その上で、「本件商標のO!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえ、前記(イ)の本件商標の構成を考慮しても、本件商標の各構成部分(O!Oi部分及びMAIN部分)は、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合していると認められないから、本件商標については、その構成部分の一部であるO!Oi部分を抽出し、O!Oi部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されると解するのが相当である。」として分離観察を肯定し、両商標は類似するものと判示しています。

■ 取引の実情

裁判所が認定する取引の実情は、審判においても審判請求人から主張されていました。しかし審決は「被請求人等が不正の意図をもって使用しているとする「O!Oi」の文字や「OIOI」の文字も、本件商標とは構成を異にする別異の商標であることからすると、それらの使用の事実を根拠として、本件商標が請求人標章に化体した信用力や顧客吸引力にフリーライドしたものということはできない。したがって、請求人の上記主張は採用できない。」と判断されていました(「速報」より)。
この認定は、筆者は理解できません。フリーライドであろうと思います。しかし、裁判所が「類似」と認定する理由も理解できません。

■ 分からないこと

本件において、審決も引用商標の周知性は認めています。異なる判断になった要素は「取引の実情」の評価にあるでしょう。取引の実情において、商標権者はフリーライド的な使用(悪意)をしていた、という前提で考えてよいとは思います。
しかし、悪意の使用をもって、分離観察を認めてよいのでしょうか。11号の判断において、審査基準では恒常的な取引の実情は考慮するも、個別的な実情は考慮しないとされていますが、無効審判においては具体的な取引の実情も考慮できるというのが多数説のようです(筆者は納得していませんが)。11号が考える「類似」とは、原則は「紙の上での判断(願書に記載された商標同士)」ということを忘れてはならないと思います。
そうであれば、本件は、「類似ではない」というべきではないでしょうか。

■ むすび

本件における商標権者は、取引の実情を鑑みると「悪意」をもっての登録であるといえ、混同のおそれは否定できない事例だとは思います。そうであれば、裁判所は11号ではなく、15号に該当すると判示すべきものであったのではないか、と思う次第です。

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