商標・知財コラム:弁理士法人レガート知財事務所 弁理士 峯 唯夫 先生

イチゴ「あまおう」の商標権と育成者権

■ イチゴ「あまおう」に危機
福岡県産のイチゴ「あまおう」。しっかりと商標登録をして、農産物ブランド化の成功例として採りあげられることもしばしば。スーパーでは、それなりのブランドである「とよのか」等よりも高い値段で売られています。「あまおう」は新品種の特長を表す4つの言葉、「あ・赤い」、「ま・丸い」、「お・大きい」、「う・美味い」の頭文字と「甘いイチゴの王様になるように」という願いから名づけられているとのこと(イチゴ「あまおう」の開発・普及と知的財産の保護(http://www.tokugikon.jp/gikonshi/256/256tokusyu06.pdf))。
その「あまおう」ブランドに危機が迫っているようです。

■ 育成者権が切れる
「あまおう」の福岡限定生産をサポートしたのが育成者権です。品種名を「あまおう」としてしまうと、「あまおう」は普通名称になります(種苗法22条1項、商標法4条1項14号)。育成者権の権利者である福岡県では、品種名を「福岡S6号」として、「あまおう」の普通名称化を阻止しています。しかしながら、この育成者権が2025年1月に切れるというのです。
現在の種苗法では、育成者権の存続期間は原則として登録から25年ですが、2005年に登録された「あまおう」は、存続期間が20年です。
ちなみに、育成者権とは、種苗法で定められた権利であり、種苗法第3条で、「次に掲げる要件を備えた品種の育成(人為的変異又は自然的変異に係る特性を固定し又は検定することをいう。以下同じ。)をした者又はその承継人(以下「育成者」という。)は、その品種についての登録(以下「品種登録」という。)を受けることができる。」とされ、新しい品種について育成者権を登録するものとしています。そして第20条で、「育成者権者は、品種登録を受けている品種(以下「登録品種」という。)及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種を業として利用する権利を専有する。」と規定されています。

■ 育成者権が切れると・・・
育成者権の権利者である福岡県は、育成者権に基づき、県内の事業者にのみ、その育成を許諾していました。しかし、育成者権が切れるとその縛りはなくなり、全国どこでも同じイチゴを生産することが可能になります。
「『福岡S6号』という品種のイチゴ」=「あまおう」
という関係は成り立たなくなります。福岡県以外でも「福岡S6号」という品種のイチゴが生産され、スーパーで競合することになりかねません。おそらく「あまおう」という名前は使えないでしょうが。

■ 「あまおう」の商標登録
育成者権の消滅後、福岡県が拠り所にするのは商標です。そこで、商標「あまおう」の登録状況を検索したところ、商標「あまおう\甘王」が第31類・果実,野菜,苗を指定商品として登録され(登録第4615573号)、商品パッケージに表示されている「博多あまおう」は、登録第5042710号として登録されていましたが、いずれも権利者は全国農業協同組合連合会です。ブランド展開を中心的に担っているのは JA全農ふくれんのようですが、専用使用権の登録はありません。
全国農業協同組合連合会が、福岡県以外の農協に使用を許諾することはないとは思いますが、商標権におけるJA 全農ふくれんの地位は盤石とはいえないようです。

 

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