商標・知財コラム:弁理士法人レガート知財事務所 弁理士 峯 唯夫 先生

「ホストクラブにおける飲食物の提供」と「インド料理の提供」は類似する
(令和 4年 (行ケ) 10090号 審決取消請求事件)

■ 筆者の所感
この判決を読んだ第一印象は、「なぜ?」。
食事をしようと思う人は「ホストクラブ」へは行かないし、ホストと遊びたい人は「インド料理屋」へは行かない。需要者は違うだろう。
「ホストクラブの提供」という役務指定が認められていれば、こんな事件は起こらなかった。

■ 裁判所の判断
裁判所は、「 商標法4条1項11号における役務の類否は、出願商標及び引用商標の指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又 は提供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断すべきであり、具体的には、提供の手段、目的又は場所、提供に関連する物品、需要者・取引者の範囲、提供主体の業種、当該役務に関する業務や事業者を規制する法律、同一の事業者が提供するものであるかどうか等の取引 の事情を総合的に検討し、個別具体的に判断すべきである。」と役務の類否判断の基本を説示する。
ついで、
「「ホストクラブ」は、「ホスト(クラブなどの 接客係の男性)が主に女性客をもてなす酒場。」(広辞苑第7版、平成30年1月12日発行、甲5)であり、飲食物の提供が付随する娯楽を提供 するものとしてナイトクラブと同様であることに鑑みると、本願商標の 指定役務の「ホストクラブにおける飲食物の提供又はこれに関する助言・相談若しくは情報の提供」は、娯楽サービスの提供(接待等)の面でなく、飲食物の提供の面から検討するのが相当である。」と、本願商標の指定役務の観点を定義づけ、結論として、
「本願商標の指定役務と引用商標の指定役務とは、飲食物を提供するという点で共通し、当該役務に関する業務や事業者を規制する法律も共通し、役務を提供する業種、役務の提供の手段、目的又は場所、役務の提供に関連する物品、需要者等の範囲が共通し、かつ、同一の事業者が提供する場合もあるから、これらを総合的に考慮すると、本願商標の指定役務と引用商標の指定役務に同一又は類似の商標が使用されたときには、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるといえる。」と判示する。

■ 結論への疑問
判決では、結論に記載された各要素の共通性について具体的に判断しているが、ほとんどは、「一般的に共通する」というのではなく「共通する場合もある」という判断に止まっている。極めつけは「需要者、取引者の範囲」であって、「本願商標の指定役務の需要者は、ホストクラブにおいて飲食の提供を受けようとする女性であり、引用商標の需要者は飲食の提供を受ける者であって、そこには女性も含まれるから、飲食の提供を受けようとする女性という点で共通する。」と判断している。
これを言ってしまったら、需要者の共通は判断要素として意味をなさないものになるだろう。
非類似の役務というべきものではないだろうか。
加えて、本願商標(商願2019-153110)は標準文字の「HEAVEN」、引用商標(登録第6026916号)は以下の態様であり、商標が非類似という選択肢もあったように思うところである。

(引用商標)

■ 実体と乖離した指定役務
J-PlatPatによると、「ホストクラブにおける娯楽施設の提供」は41類、「ホストクラブにおける飲食物の提供」は43類とされている。互いに非類似の役務である。「お店で提供する役務」を、娯楽の観点から見ると前者、飲食の提供という観点から見ると後者という切り分けのようだ。
しかし、ホストクラブでは、「ホストからの接待」(娯楽)も「飲食」も楽しむのであろう。一方だけでは「ホストクラブ」という「お店」は成立しない。細かく役務に切り分ける役務の指定では、業態に即した権利を取得できない場合が多々ある。今日も、相談者に「(高速道路の)サ-ビスエリア」という指定は「認められない」と話したら意外そうな様子。
何とかならないものだろうか。

 

弁理士法人レガート知財事務所 弁理士
峯 唯夫

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