商標・知財コラム:弁理士法人レガート知財事務所 弁理士 峯 唯夫 先生

大間沖で捕れなくても「大間まぐろ」?

■ 大間まぐろ
「大間まぐろ」といえば、大間沖、津軽海峡の荒波の中、漁師が一本釣りで大きなクロマグロと格闘する様子を目に浮かべる人も多いと思います。大間漁港に行くとマグロのモニュメントがあり、荒波を背景に記念撮影をする観光客も多くいます。そして、初セリでの高値。今年は3604万円でしたが、2019年の3億3360万円は大きな話題になりました。
その「大間のまぐろ」の定義を、大間漁業協同組合は2022年11月1日から、変更した。
「大間沖で漁獲されるまぐろ」から「大間の港に水揚げされ大間漁業協同組合で荷受けされたまぐろ」へと。

■ 地域団体商標
「大間まぐろ」は2007年、地域団体商標に登録されています(登録第5051377号)。その指定商品は「青森県下北半島大間の港に水揚げされ大間漁業協同組合で荷受けされたまぐろ」。「大間沖で漁獲」として特定されています。後に登録されたステッカー商標(登録第5283516号)も同様。
特許庁HPでは、「大間で水揚されるまぐろは一本釣・延縄漁法で漁獲され、水揚後直ちに内臓処理を行い、水氷に入れて鮮度保持に努めております。荷揚げされたマグロはおもに豊洲市場に出荷され高い評価を受けております。地元でも漁協運営の直販所において販売しております。」と紹介されています。
ところが、商標「大間まぐろ」は2022年10月26日に、別のステッカーが通常の商標として出願されています(商願2022-122837号)。その指定商品は、「青森県下北郡大間町大字大間の港に水揚げされ大間漁業協同組合で荷受けされたまぐろ」。登録商標では「大間沖で漁獲される」というように漁場が特定されていましたが、新たな出願では漁場は特定せずに水揚げ地の特定に変わっています。定義変更への対応です。

■ 水産物の産地表示
水産物の産地表示は、「国産品にあっては生産した水域の名称(以下「水域名」という。)又は地域名(主たる養殖場が属する都道府県名をいう。)を、輸入品にあっては原産国名を記載すること。ただし、水域名の記載が困難な場合にあっては、水揚げした港名又は水揚げした港が属する都道府県名をもって水域名の記載に代えることができる(農水省「生鮮食品品質表示基準」)とされている。これによれば、「大間沖」という海域の表示が原則ということになりそうです。
とはいうものの、地域団体商標として登録されている水産物において、水揚げ港を特定したものも見受けられます。
「越前がに(えちぜんがに)」(登録第5089307号)は「福井県の三国港、越前港、敦賀港、小浜港に水揚げされたズワイガニ」、「間人ガニ(たいざがに)」(登録第5002133号)は「間人港で水揚げされたかに」。「下関ふく(しものせきふく)」(登録第5174640号)は「山口県下関市南風泊で水揚げされて身欠き処理されたとらふぐ」、「鐘崎天然とらふく(かねざきてんねんとらふく)」(登録第5967512号)は「福岡県宗像市鐘崎で水揚げされた天然のとらふく」。かに、ふぐは海域が重なりそうですが、水揚げ港で棲み分けているようです。

■ 大間まぐろ
定義変更の理由は、大間沖のまぐろが減ってしまい、日本海や太平洋での漁を行っている事情があるとのこと。以前の定義ではこれらは「大間まぐろ」を名乗れない。これらも「大間まぐろ」を名乗れるようにするための定義変更のようです。
しかし、大間町HPで、「大間のマグロは、大間崎沖1~3キロメートルで釣れる近海物だけに、東京築地市場でも値が高く、外国産の冷凍マグロが1キロ当たり7000円前後なのに対し、軽く数万円の値がつき、高値のため大物はほとんど大市場へ直送され、「地元でおいしいマグロが捕れるのになかなか口に入らない」と嘆く声もある。」と紹介される「大間まぐろ」はどうなるのでしょうか。豊洲での扱いは。寿司屋では?
商標法は、「指定商品又は指定役務以外の商品又は役務について登録商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為」を禁止していますが(74条2号)、ステッカーに登録商標表示はないので禁止規定には該当しません。
しかし、評価を下すのは取引者・需要者です。

 

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