商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

権利のない「著作物」とのつきあい方

■ 権利のない「著作物」って?
峯の仲間に鉄道写真家がいます。彼は、著作権を相談できる人をネットで検索して峯の事務所に来たのですが、ラッキーなことに峯は「鉄」。意気投合して長いつきあいになっています。
その人は、書籍の企画などもしており、著作権対応でいろんな相談を持ちかけてくるのです(「鉄」仲間の活動サポートということで報酬なしですが、時々すばらしいお布施をいただきます。)。結構「権利のない「著作物」」に振り回されています。
「権利のない「著作物」」。代表例は著作権の保護期間が経過した、本当の著作物ですが、その他、「著作権があるかも」というものがあります。近年の、「著作権意識の普及」?によって、そのようなものが増えています。
困ったもんだ、と感じていたところ、「エセ著作権事件簿」(友利昴 パブリブ)という書籍が発行されました。
この書籍は、著作物ではあるけれど、「そんなに威張るんじゃないよ」という紛争事案を、よく収集された情報を含めて、なぎ倒している内容です。
昨年発行された「著作物の類似性判断」(上野達弘・前田哲男 勁草書房)が「正史」だとすると「外伝」です。

■ 「気にしなくていい」が基本だが
日本の知的創作物の保護は、「法律で規定されている限りで保護される」です。したがって、著作権法で保護されない「著作物」は「保護されない」のであって、自由に利用できる(不競法は考慮しません)。ここで、「法律」では「慣習法」も一定の範囲で許容されていることが、ややこしさを増幅しています。
「慣習法」とは、慣習が法律と同じ効力を持つ、というものであって、法の適用に関する通則法3条で以下のように規定されています。
「公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。」
峯の学生時代(50年前)には、「入会権」「入浜権」が論じられていました。

■ 所有権侵害には当たらない
著作権が切れた著作物は保護されない。したがって、著作物の利用に対して対価を請求することはできない。しかしながら、対価を請求するビジネスが存在する。「錦絵コレクション事件」(大阪地判H27・.9・.24)はその一例です。
この事件で、原告は、原告が所有する錦絵を写真撮影して書籍に掲載するなどの行為は、原告の所有権を侵害するものであると主張したが、裁判所は次のように説示して、所有権侵害(所有権に基づく対価請求)を否認しました。
「そこで利用の対象となっているのは,有体物である本件錦絵そのものではなく,有体物である本件錦絵を撮影して得られた写真から感得できるところの本件錦絵の美術の著作物としての面,すなわち無体物としての面であるから,被告の行為は,その行為態様だけでなく,その利用対象の面においても,有体物である本件錦絵の排他的支配権能をおかすものでないことは明らかである。したがって,そこでは本件錦絵の所有権侵害は問題となり得ない」。なお、顔真卿自書中告身帖事件(最高判昭59・1・20)参照。

■ 慣習法
原告は、原告所蔵品の映像を利用する者は対価を支払う慣習法が存在すると主張したが、裁判所はこれを否定しました。裁判所は、出版物を介して,既に一般にも容易に入手され得る状態になっていたその出版物に掲載された錦絵を利用するため,原告の定める利用規定に従って契約締結をする者の存在を認めた上で、「その対価の支払根拠は,結局,原告との合意に基づくことになるから,このような事実関係から,原告主張に係る商慣習又は商慣習法の存在を認めることはできない。」「上記事実関係があるからといって,それが原告主張のような商慣習があると認めることさえ困難であるし,したがって,さらにそれから進んで,それが法的確信によって支持され商慣習法にまで至っているものとは認めることはできないというほかない。」と判示しました。
加えて、次のように説示して、原告の主張する商慣習は、著作権法と相容れないものであるとしています。
「そもそも原告が商慣習又は商慣習法で保護されると主張する利益は,著作権法の保護しようとしている利益と全く一致しているものであるところ,著作権法は,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を与え,その権利の保護を図り,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,その発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その権利の範囲,限界を明確にしているところであるから,著作権法が保護しようとしているのと同じ利益であり,しかも著作権法が明確に保護範囲外としている利益を保護しようとする慣習は,著作権制度の趣旨,目的に明らかに反するものであって,それが存在するとしても,そこから進んで,これを法規範として是認し難いものである。」
「ギャロップレーサー事件」(最判H16・2・13)参照。

■ 判決の射程
この判決は、「一般にも容易に入手され得る状態になっていたその出版物」の写真を利用する事案についての判断、すなわち、著作物の所有者に頼らずとも著作物を利用できるケースです。博物館等における写真原版などの資料貸し出しの対価は、経済的合理性も認められるし,所蔵品の所有者としての博物館等の所有権の権利行使としても説明できる、としています。

 

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