商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

三セク鉄道の共同企画「鉄印帳」

■ 鉄印帳
「鉄印帳」をご存知でしょうか。御朱印集めがブームになり、「御朱印帳」片手に神社仏閣を巡る人が多く見られます。これにヒントを得たのが「鉄印帳」。発案者は、第三セクター鉄道・くま川鉄道の永江友二社長。くま川鉄道は、JR肥薩線の人吉と湯前を結ぶ24.8キロの短距離路線で、お客さんの殆どは高校生という典型的なローカル鉄道。当然に赤字です。まして、3月以降の新型コロナで高校は一時休校、観光客も来ない。収入は限りなくゼロに近い。

■ 全国の三セク鉄道のために
三セク鉄道では、記念乗車券の販売やイベント列車の運行やご当地グッズ(銚子電鉄の「ぬれせんべい」が有名)を販売したりと鉄道ごとの努力をしているが、全国の三セク鉄道が一体となる企画は今までにありません。
「御朱印帳」にヒントを得た「鉄印帳」。永江さんは、御朱印帳があちこちの社寺を巡って御朱印を受けるのと同様に、 鉄印帳を持って全国の三セク鉄道に乗車してほしい、赤字に苦しむ三セク鉄道の収入源になってほしい、と考えました。

■ 共同企画として発売
永江さんは、全国の三セク鉄道でつくる第三セクター鉄道等協議会の会長だった肥薩おれんじ鉄道(八代市)の出田貴康社長に相談し、総会で提案したところ、一気に盛り上がりトントン拍子で話が進んだとのこと。
7月10日に、全国の三セク鉄道40社の共同企画として、鉄印帳事業が開始された。鉄印帳を販売し、御朱印ならぬ「鉄印」を集めてもらおうというもの。鉄印は鉄道ごとのオリジナルデザインで制作されている。手描きのものと、予め印刷されたものとがあるようです。
永江さんは「三セク鉄道初の共同企画で、新型コロナウイルスに立ち向かう」と期待していた。

■ 九州豪雨
ところが、事業開始直前の7月6~8日に九州豪雨。くま川鉄道は鉄橋や路盤の流失など、全線で大被害を受けて列車の運転はできず。現在、復旧させる方向で検討が進められているが、復旧までは数年を要する見込み。
鉄印帳、鉄印は「乗ってもらう」という思いは叶わずネット販売になっています。

■ 指定商品・指定役務
「鉄印帳」は今日(12月9日)時点では商標登録出願は見当たらない。出願する場合、「鉄印帳」それ自体は「御朱印帳」と同様に、第16類(25B01)であろうが、「鉄印帳事業」はどうなるのだろうか。
予め印刷された「鉄印」は300円程度で頒布されるようであるから、印刷物の範疇に含まれる商品と捉えることができる。
他方、需要者の行為は鉄道に対する「募金」「寄付」であり、鉄印は募金のお礼品とみるならば第36類(36A01)と捉えることもでき、鉄道事業者側から「資金の調達」とみるならば、第36類(36A01 36B01)と捉えることもできる。
新しい事業の指定役務の決定は難しい。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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峯 唯夫 先生

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