商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

商標「白クマ」と商標法26条

■ 商標「白クマ」
夏、暑い、アイスクリームだ、かき氷だ。アイスバーの「白くま」を食べながら、ふと思い出したのが商標「白クマ」を巡る事件。20年以上前の事件ですが、商標法26条を巡る役に立つ判決だと思われ、最高裁HPに収録されていないようなので、紹介します。
事案の概要は、指定商品「菓子」についての商標「白クマ」(登録第778416号)の専用使用権を持つ原告が、商品「冷菓」および「ラクトアイス」に「白クマ」に類似する商標を使用する被告に対して、その使用差止めなどを求め、被告は「白クマ」が普通名称又は慣用商標であり、商標法26条により、その使用は許容されると反論したものです。

■ 飲食店で提供される「かき氷」の名称「しろくま」
筆者が初めて「しろくま」を知ったのは学生時代(ほぼ50年前)。九州のあちこちの「かき氷」のあるお店に「しろくま」ののぼりが立っていました。その当時、「しろくま」発祥の地とされる天文館の「むじゃき」は知らず。
裁判所は、「鹿児島県を中心とした九州地方では、広く一般に、かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたものを『しろくま』と呼んでいることが認められ、『しろくま』というのは、鹿児島県を中心にした九州地方において、かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたものを意味する普通名称であると認めるのが相当」であると認定し、商標法26条の「「普通名称」というのは、日本全国において通用することは必要でなく、一地方において普通名称となっていれば足りるというべきである」、とも判示しました。

■ 飲食店で提供される「かき氷」と商品「氷菓」「ラクトアイス」
「しろくま」が飲食店で提供される「かき氷」の普通名称であることと、被告が販売する商品「氷菓」「ラクトアイス」の普通名称といえるかは切り分ける必要がある。この点について裁判所は、「世上、飲食店において提供される飲食物を流通型商品に加工して販売することは、本件のようなかき氷に限らず、種々の飲食物において見られるところであり、そのような場合には、流通型加工商品も、元となった飲食物の性質を備えている同一物又は代用物と観念される限り、飲食物と同じ一般名称で呼ばれるのが通常である。したがって、本件でも、被告商品が、喫茶店等において提供される「かき氷に練乳をかけ、フルーツをのせたもの」の同一物又は代用物と観念される場合には、『しろくま』は、なお、被告商品についても普通名称であるというに妨げないというべきである。」と認定しました。
この指摘は、飲食店の料理がコンビニなどで商品として販売される場合の商標関係を整理する際に役立つであろう。キーワードは「代用物」。

■ 「かき氷」と「氷菓」「ラクトアイス」
裁判所は、『しろくま』は、練乳がかけられているとはいえ、かき氷を元とし、しかも、そのことを消費者が認識している以上、冷涼感や食感は、「氷」である。そして、「氷菓」と「ラクトアイス」とを比較すると、乳固形分の含有率が小さいため、冷涼感が大きく、食感が「氷」により近く、また、そのイメージも「氷」により近いのは「氷菓」である。このように、一般には、「氷菓」については「かき氷」の延長にある代用物と認識されているとみるのが合理的であるが、「ラクトアイス」については、「かき氷」の代用物と認識されているとはいえない。」と認定し、「しろくま」は商品「氷菓」については普通名称といえるが、商品「ラクトアイス」については普通名称とはいえないと判示しました。

■ 「慣用商標」といえるか
被告は「ラクトアイス」について、普通名称でないとしても多数の事業者が使用して識別力を喪失した「慣用商標」であると主張したが、裁判所は、「しろくま」の商品名を使用しているメーカー数が多いとは認められず、使用しているメーカーも原告から使用許諾を受けて使用している事情も認められることなどを理由に、これを否認しました。

■ 雑感
裁判所で普通名称と認定された「氷菓」についての「しろくま」であるが、「しろくま」の文字(読み)を含む商標が多数、指定商品に「氷菓以外の菓子」を含めて登録されています。例えば、「よくばり果実の白くま」(登録第5707410号)、「蒸氣屋の白くま」(登録第5397847号)、「マルナガの白くま」(登録第4221458号)。登録商標「白クマ」とは非類似であるとしても、「白くま」の文字が「普通名称『しろくま』を認識させるというべきではないだろうか。
そして、意外な登録を発見しました。「Creme de Shirokuma\天文館むじゃきの しろくまのお酒」(第33類、登録第第5936201号)。権利者は酒造会社です。

(判決)
大阪地方裁判所 平成8年(ワ)12855号
判決検索サイト
「大判例」(https://daihanrei.com/)参照

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

メルマガ登録
峯 唯夫 先生

峯 唯夫 先生
バックナンバー

ページTOPへ