商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

続々結合商標の一部に係る商標権の効力
=「TeaCoffee」事件大阪地裁の結論=

 先に、結合商標の一部に係る商標権の効力について、「ヒアルロン酸」事件(平成16年5月31日 東京地裁平成15年(ワ)第28645号)や「マタニティベルト」事件(平成30年7月19日 大阪地裁平成29年(ワ)第9989号)裁判例を掲げて、結合商標中の出所表示機能を有しない部分をもってしては、他人の使用に対しては、当該商標権の効力は及ばない旨紹介した。前掲二裁判例では、問題商標部分は、それぞれ指定商品表示の事例である。

 この度の「TeaCoffee」事件も、同種の事案で、原告登録商標(下掲参照)の一部には、「TeaCoffee」の文字を有し、指定商品は「茶入りコーヒー 」等である。新聞でも取り上げられて、注目されていた(2018.7.20読売、日経)。

  
 大阪地裁は、以下のように判断して、原告登録商標中の「TeaCoffee」部分の識別力(出所表示機能)を否定して、被告使用商標とは、非類似と判断した(平成31年3月14日  大阪地裁平成30(ワ)4954) 。
 『茶(日本茶,紅茶)とコーヒー を組み合わせた飲料等については,別紙「茶とコーヒーを組み合わせた飲料等の販売開始時期や商品名等一覧表」記載のとおり,原告商品が販売される以前からそのような商品やメニューが少なからず存在し,・・・これらからすると,「TeaCoffee」との表記に接した需要者,取引者が,・・・「Tea」と「Coffee」を組み合わせた飲料等を意味すると認識することに妨げはなく,そのように認識すると認めるのが相当である。
  「TeaCoffee」との語は,原告商標の指定商品について使用するときには,商品の品質(内容)又は原材料を直接的に示すにすぎないものとして,自他商品識別力を有しない。』

 被告提出の同種飲料の一覧表による取引の実情も考慮しているが、指定商品の品質又は原材料の直接的表示と認定している点がポイントである。「TeaCoffee」部分は、原材料又は品質を表示する指定商品の内容表示部分として識別力はなく、原告登録商標の要部とはなり得ないとの認定、判断で、予想通りである。原告の使用による識別力の獲得の主張も不定された。指定商品に係る普通名称的表示では極めて困難である上に、短い使用期間であり、また一貫性のない使用が認定されている。
 商標の専門家であれば、事前に想定できた結論であり、時間や費用を考慮すれば、訴提起前に鑑定や特許庁の判定を仰ぐ方法もあったと思われる。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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