商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

結合登録商標の一部と商標権の効力
=尿素ヒアルロン酸化粧水事件の例=

 結合登録商標の見方 先般、関係者と新聞掲載の侵害事件で意見交換をする機会があった。新聞によれば、ある食品メーカーが、飲料の普通名称を二つ並べた語について登録商標を有し、同様の使用を始めた同業者を商標権侵害として提訴したという。私は、登録商標の詳細を調べるべく、特許情報プラットフォームで検索したら、普通名称を二つ並べた語の登録はヒットせず、それに図形を結合した登録商標は見付かった。

 指定商品、役務に着目すべき 私の理解では、図形部分に商標的機能、すなわち出所表示機能を有するとして登録されたものであろう。この点、指定商品を見れば分かり、登録商標中の普通名称からなる飲料を、指定商品としている。そうであれば、私の先の理解のように、一般的には、図形が要部ということになる。出所表示機能を有するのが、他の文字部分でも変わりはない。確かに、願書に記載した商標や商標公報には、そのまま飲料の普通名称の語もあるが、指定商品や役務について出所表示機能を有しないものは、そのことを踏まえて、登録商標を理解しなければならない。商標の類似判断においては、出所表示機能を有する部分を分離して行う要部観察が確立し、出所表示機能を有しない部分のみは判断の対象とはされない。

 尿素ヒアルロン酸化粧水事件 そのような侵害事件で、商標権者・原告の請求が棄却された例がある。原告の登録商標「石澤研究所の尿素とヒアルロン酸の化粧水」(第4730734号)、指定商品「尿素とヒアルロン酸を配合してなる化粧水」で、被告の使用は「尿素+ヒアルロン酸化粧水」である。裁判所は、被告の使用は、商標としてのものではなく、指定商品の品質、内容表示で商標法26条1項2号に当たるとして、商標権の効力は及ばないとした(平成16年5月31日 東京地裁平成15年(ワ)第28645号)。
 この裁判例からも分かるように、結合商標に係る登録商標と同一又は類似の部分を使用しても、その部分が指定商品や役務との関係から出所表示機能を有しない場合は、商標権の効力は及ばないのである。旧商標法時代は、権利不要求制度があり(旧法2条2項)、結合商標中の要部と認められるおそれのある部分については、出願人に権利不要求の意思表示を求めていたが、判断の困難性や不要求に応じない場合の扱いなどから現行法では踏襲されていない。

 商標法26条1項柱書き参照 平成8年の改正(平成8年法律第110号)で、商標権の効力が及ばない範囲を定めた商標法26条1項柱書きに、「(他の商標の一部になっているものを含む)」と括弧書きし、結合商標の一部が同1項各号に掲げる商標(指定商品の普通名称等)に当たる場合も、商標権の効力は及ばない旨確認した。これは相手方の使用商標についてのことだが、代理人たる専門家は、登録商標についても、指定商品や役務に着目し同様の判断をしなければならない。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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