商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

模倣品に係る商標権侵害事件の現状
=刑事事件はどうか=

久しぶりの模倣品事件記事 先日、輸入品に係る商標権侵害事件の新聞記事に接した(平成29年10月14日毎日新聞)。輸入品「スニーカー」に使用した商標が著名商標「アディダス」で、輸入先が中国という典型的な模倣品事件である。数年前迄は頻繁に報道されたが、最近では久しぶりの事件と思い、手許の資料を捲ると、直前の報道事件は、3年前の商品「ブレスレッド」に係る「偽チャン・ルー」商標権侵害事件であった(平成26年5月14日毎日新聞)。いずれも刑事事件となった事件である。

税関統計から これを確かめようと、財務省作成の税関統計にアクセスした。最新統計が平成27年のもので、それによれば、輸入差止件数は、29,274件、前年比では8.7%減ではあるが、過去最多の前年に次いで過去2番目の高水準とある。この中で、商標権侵害が95.2%であり、品目別では、バッグ類と衣類で約50%を占め、靴類も約12%とある。そして、仕出国先別では、中国が91%とあり、相変わらずである(財務省「平成27年の税関における知的財産侵害物品差止め状況」)。
 この統計からは、タイムラグがあり特に昨年の状況は分からず、私の推測や実感の当否は判断出来ない。また、税関での差止めは民事事件の範疇で、個別の事件迄は先ず報道されることはない。

刑事罰の強化とその後 平成18年の商標法の改正で、商標権侵害の刑事罰が強化され、懲役刑の上限が10年に、罰金の上限が1,000万円に引き上げられ、そしてその併科が可能とされた(商標法78条)。その後10年経過して、その効果が現れ始めたのかと期待していた。犯罪白書の統計によれば、検察庁の商標法違反新規受理人数が、平成17年896人、同27年658人と改正後は減少していることから、事件数も減少と窺える。

 商標権侵害刑事事件は、権利者の告訴を要しない非親告罪ではあるが、商標権者の積極的な管理が重要で、日頃からの市場の把握、そして適切な権利行使等となる。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

メルマガ登録
工藤 莞司 先生
工藤 莞司 先生
バックナンバー
ページTOPへ