商標・知財コラム:首都大学東京法科大学院元教授・講師 元弁理士 工藤 莞司 先生

わが国商標登録制度の特徴
=登録制度の仕組みとメリット=

 わが国商標制度は、登録主義を採用している。現在では、世界の殆どの国等と同じである。登録主義は、先願主義と結び付いて(8条1項)、権利の存在や先後願関係を明確にし、商標の保護に貢献する。

商標権存在の明確化 登録主義の下では、商標権の発生は、商標登録原簿に登録された時からである(18条)。したがって、権利の発生・存在、内容及び権利者は、登録原簿により確かめられ、常に明確である。登録原簿は公開され、閲覧や謄本交付はもとより(72条)、コンピュータ化され特許庁ウェブサイト上「プラットフォーム」として、ネット検索が可能とされている。また商標登録公報も発行されている(18条3項)。
 事業者は、商標を採択し登録や使用をしようとするときは、前掲登録原簿情報を通じて、事前に登録商標、また出願中の商標を知ることが出来る。「プラットフォーム」は先登録等検索機能付きである。また、民間会社等も詳細な商標検索情報を提供している。
 出願前の調査は、事前に登録可否の判断や侵害を回避することが出来るのみならず、無駄な出願を防止し、特許庁の迅速、的確な審査処理にも役立つことになる。

安定した商標権の付与 わが国商標制度は、審査主義をも採用し(14条,15条)、出所表示機能の有無や他人の先願先登録との類否についても、公益的不登録事由と共に審査をする完全審査主義である。したがって、審査を経て登録される商標権は安定したものである。また、登録後に異議申立てや無効審判制度もあり、裁判前に商標登録の有効性について、特許庁の判断を得ることも出来る。

不使用対策 登録主義においては、出願前の使用を条件とせず、使用意思の存在で登録可能で、近い将来の事業開始に備えた商標登録が可能である(3条1項柱書き)。その反面、事業の中止や方針の変更などにより不使用の登録商標も存在し累積することになる。このため、不使用取消審判制度を設けている(50条)。最近の統計では、2011年1169/1011、2012年1050/874、2013年1190/812、2014年1099/864(請求件数/取消成立件数)と機能していると言えよう。

このように、わが国商標登録制度は、商標権の存在を明確にし、事前調査を可能にして、また安定した商標権を付与するものである。

首都大学東京法科大学院元教授・講師 元弁理士
工藤 莞司

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