雑感・コラム
新しいタイプの商標
最近、「商標の周知・著名性の証拠を収集できますか?」というご相談を大変よく受けるようになった。詳しくお聴きすると、新しいタイプの商標に関連してのご相談である。特許庁からの拒絶に対応して、使用による識別力獲得(商標法3条2項適用)の証拠を集めたいということなのである。
同法が改正され、新しいタイプの商標(動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標の5タイプ)という、これまで商標として登録し保護することができなかった商標について登録をすることができるようになった[i]。
新しいタイプの商標は、平成27年4月1日から特許庁で出願受付開始され、2016年5月31日時点の検索で1,278件(「音商標」413件、「動き商標」89件、「ホログラム商標」16件、「色彩のみからなる商標」473件、「位置商標」287件)の出願が確認される。
新しいタイプの商標は、非伝統的商標(non-traditional marks)と呼ばれることもあるが、その逆は、伝統的商標(traditional marks)であって、平面商標ともいわれるものである。日本では、古くから認められて長い歴史を誇る二次元の平面商標の時代が続いていた。
平成8年法改正で、ある意味、新商標の先駆けともいえる立体商標制度が導入されている。登録された立体商標の例としては、1985年阪神タイガース優勝のあと、大阪の道頓堀川に放り込まれて沈められ、24年後の2009年にボロボロな哀れな姿で発見され、大いに世間を騒がせたカーネルおじさんがいる[ii]。カーネルおじさんの立体商標は、登録第4153602号(第42類「飲食物の提供」)、登録第4170866号(第29類「食肉、等」)として登録されている。
また、ペコちゃん人形の立体商標は、登録第4157614号(第29類「食肉、等」,第30類「菓子及びパン、等」,第32類「清涼飲料、等」,第42類「飲食物の提供」)として登録されている。
これらなどは、店頭にカーネルおじさんやペコちゃん人形が立っていれば、あの美味しい料理を提供してくれるあのお店だなという目印になっている。これは、商標の機能を充分に発揮できているタイプなのかもしれない。
しかしながら、商品自体の形状の場合は、カーネルおじさんやペコちゃん人形のように簡単に登録にならない。カーネルおじさんやペコちゃん人形も美味しい料理を提供してくれるお店のサービス等の目印にはなっているが、その像や人形が商品自体ではない。例えば、縫いぐるみや人形という物品のデザイン自体は本来、意匠権で保護されるべきで、簡単に立体商標での登録を認めるべきではないという考えもできるが、立体商標では登録のハードルが高く、特許庁から大量の拒絶が出されている。一方、出願人(デザイナー等)は有限の意匠権より、更新により半永久的な権利となる商標権を取得したいと思うはずである。大量の立体商標の出願がなされた一方で、また大量の特許庁の拒絶が出されている。
そのような登録が難しいとされた立体商標でも、長年使用された結果、著名なものになってくれば登録される例が出てきた。
ここで冒頭に述べた「使用して周知・著名になった商標(同法3条2項適用)」に繋がってくる。
例えば、スーパーカブの立体商標は、登録第5674664号(第12類「二輪自動車」)として登録された。オートバイ自体のデザインは、意匠権ではないかと考えるのであるが、使用された結果非常に有名となったため、査定不服審判2013-009036で、同法3条1項3号の拒絶を見事に回避して、同法3条2項適用(使用による識別性)で登録されたのである。
このように立体商標が登録されるためには、一つに同法3条2項適用(使用による識別性)が必要であろうという流れがあったのは確かである。
さらに続いて、今話題となっている新しいタイプの商標(動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標)でも、同様に同法3条2項適用(使用による識別性)が必要ではないかと、制度導入前から問題となっていた。実際、制度導入後に、使用して周知・著名になった商標について証拠を収集できないかとのご相談が激増しているところからも、この問題は顕在化してきていると思われる。
新しいタイプの商標の登録例を概観してみたい(2016.05.31現在)。
「音商標」 出願413件中、登録32件(約8%)
「動き商標」 出願89件中、登録29件(約33%)
「ホログラム商標」 出願16件中、登録1件(約6%)
「色彩のみからなる商標」 出願473件中、登録0件(0%)
「位置商標」 出願287件中、登録5件(約17%)
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、商品の包装用容器の本体側面の上半部に付された赤色の図形からなる。なお、破線は、商品の包装用容器の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。
このように、新しいタイプの商標の5タイプ2016年5月31日時点の全1,278件の内訳毎の出願件数及び登件数は、審査中、審査待ちを含むが、各タイプ毎に、「音商標」出願413件、登録32件(約8%)、「動き商標」出願89件、29件(約33%)、「ホログラム商標」出願16件、登録1件(約6%)、「色彩のみからなる商標」出願473件、登録0件(0%)、「位置商標」出願287件、登録5件(約17%)と大きくばらつき相違するのである。
これは、新しいタイプの商標といっても、一緒くたに一括りにできるものではないことを意味し、各タイプ別に登録可能性や識別力というものを検討しなければならないことも意味していると考えられる。
(當間)
商標イメージは、いずれも特許庁の公開データより引用しています。