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地域名と普通名称からなる標章の判決 -三輪素麺事件-

◇最近話題となった喜多方ラーメン事件については、地域団体商標での出願であったが、この三輪素麺事件は、地域団体商標制度導入前の判決である。両事件とも地域名と普通名称からなる商標に関する判決であるが、三輪素麺事件については、商標法に基づく請求が棄却され、不正競争防止法に基づく差止請求のみが認容されている。本事件の詳細については、奈良地裁 平成15年7月30日判決(平成11年(ワ)第460号)の判決文、判例評釈、各種文献等でご確認いただけるが、ここでは幾つかの特徴的部分を取上げてみたい。

◇X(原告:奈良県三輪素麺工業協同組合)は、商標法3条2項適用(3条2項は、3条1項3号から5号に該当する商標(識別力の弱いもの)でも、使用してきた結果、自他商品等識別力を有するに至った場合には、同条1項当該号の規定にかかわらず、商標登録を受けることができるとする規定)のもと登録され、更新登録された指定商品「そうめん」商標1「三輪素麺」及び商標2「三輪そうめん」の商標権者である。Xは、「三輪素麺」と呼ばれる手延べそうめんの生産、共同加工、共同購買、共同販売等を目的として設立された協同組合である。

◇一方、Y(被告)は、岡山県倉敷市に本店を置く株式会社であり、主に茶類の卸売り及び販売を行っている。Yは、Y標章1「三輪素麺」をふた上部に記載した箱に、Y標章2「三輪素麺」を包装用紙にそれぞれ付して、そうめんを日本国内で販売している。

◇そこで、XはYに対して、商標権侵害及び不正競争防止法2条1項1号に基づくY各標章の使用差止め、Y各標章を付したそうめんの容器等の廃棄及び損害賠償請求をし、提訴に及んだ。

◇ここで注目したいのは、裁判所の判断中の自他識別力についての考え方であり、『「三輪素麺」あるいは「三輪そうめん」との文字(語)自体による標章は、三輪地方の生産業者・販売業者全体として、その伝統的製法に従って三輪地方で生産されたそうめんとしての自他識別力は存するものの、三輪地方の一業者であるXが販売する商品であるとの自他識別力はないといわざるを得ない。』としており、主体的側面から識別力に制限を加えている。原告の組合は、三輪地方の業者に含まれるのであるから、一業者での独占適応性がないとみることもできる。

◇その結果、原告の商標権について、『「三輪素麺」あるいは「三輪そうめん」の文字(語)自体をもって、X各商標権の中核をなす部分であるとすることはできない。そうすると、X各登録商標とY各標章との同一性ないし類似性については、文字自体でなく、その文字部分の形態、構成等を中心にして、これを判断すべきである。』とし、商標権の効力の及ぶ範囲を、商標の称呼面から否定し、商標の構成態様(外観)の面から非常に狭く厳密に限定し、被告の各標章との類似性を否定している。このくだりについては、商標を判断するうえで非常に重要な幾つかのポイントが含まれていると考えられる。

◇一つは、一業者であるXが販売する商品としての識別力を否定(地理的表示が一個人の独占排他権としては相応しくない)、三輪地方の生産業者・販売業者全体として、その伝統的製法に従って三輪地方で生産されたそうめんとしての自他識別力は存する(その地域での共有の財産)という考え方であり、この思想は地域団体商標制度に引継がれていると考えられる。

◇もう一つは、X各登録商標とY各標章との同一性ないし類似性については、文字自体でなく、その文字部分の形態、構成等を中心にして、これを判断すべきとする部分である。これは、商標法3条2項適用のもと登録された商標の商標権の効力の及ぶ範囲が問題となる。現在の実務がこのように厳格に外観上の構成態様を求めているのも、「ミワソウメン」という称呼上で幅広く効力を認めたのではなく、外観との組合せで狭い範囲でないと効力は及ばないとしているものとも考えることもできる。そして、商標で非常に重要な識別力の判断が、外観上の識別力、称呼上の識別力等に分解できることに改めて気付くはずである。

◇この外観上の識別力ある部分に関しては図形商標調査が必要となってくるし、称呼上の識別力のある部分に関しては文字商標調査が必要となってくる。そして、この識別力のバランスを考えながら図形商標調査、文字商標調査では類似をピックアップしていくわけである。同一・類似の商標というのは、物理的に同一・類似でなく、この識別力判断を加えながらの同一・類似である点で、その判断には高度な知見、スキルが要求されるわけである。商標の類似の判断が難しいといわれる一つの理由にこれがある。

◇一方、本件判決では、不正競争防止法上の判断で、原告の主張を主要部分で認容している。

◇不正競争防止法2条1項1号に基づく請求では、『「三輪素麺」あるいは「三輪そうめん」という文字(語)自体による標章には、三輪地方の業者が、同地特有の製法で、生産され、販売しているそうめんとしての、自他識別力、出所表示機能や広告機能があり、これを消費者からみれば、三輪地方の業者が同地特有の製法で生産したそうめんであるとの品質保証機能も備えていると解される。』として、原告を含む三輪地方の業者全体で標章の各機能を備えていることを認め、その結果原告の主張を認めている。この点、商標法上の判断のように主体の範囲に縛られることなく、広く当該地域全体の利益保護が本件については可能となっている。

◇商標法に比べ、独占排他権の付与はないが、予め登録される標章の態様もなく、「不正競争行為」等一定の要件を満たせば、本件のように柔軟な理論構成ができると思われる。 (當間)

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