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部分的模倣と部分意匠制度

◇模倣品の被害はほとんど減少する気配もなく、巧妙な手口によるものが増加してきていると見える。その巧妙な手口の一つに、部分的模倣というのがあり、文字通り物品の全体でなく、独創的な特徴がある一部分を取り入れつつ、物品全体としては意匠権侵害とならない巧妙な手口による模倣である。

◇このようなときに物品全体として意匠権侵害とならない理由はというと、旧来、意匠法でいう「物品」とは独立した製品として流通するものと解されていたことから、物品の部分に係る意匠は意匠法の保護対象とはされていなかったからである。このような巧妙な部分的模倣に対処するため、平成10年法改正で、部分意匠制度が導入された。意匠法2条の意匠を構成する「物品」の定義に「物品の部分」が含まれることを明確にすることで、部分意匠が保護されることになったのである。

◇例えば、ペンのクリップの部分がその物品の部分にあたる。矢羽根型クリップ付きの世界的に有名な万年筆がある。それが矢羽根型クリップによりあの有名な社のものと出所がはっきりするし品質も保証されるから買うんだという向きには商標的な機能が発揮されているともいえるが、その矢羽根型クリップが非常にカッコ良くてデザインに魅了されるからその万年筆を買うんだという向きには意匠としての価値が見出されているのかもしれない。部分意匠制度導入前は、そのようなペンのクリップのような物品の部分の場合、それが独創的な特徴ある部分であっても意匠法上保護されなかったのであるが、当該制度導入によりそれも可能となったのである。

◇平成10年の意匠法の一部改正では、この部分意匠制度の導入以外に、類似意匠制度の廃止と関連意匠制度の創設等々、大きく重要な改正が幾つかあった年である。この中でも、部分意匠制度は、模倣対策に困っていた中小の町工場の経営者達からも喜んで迎え入れられたと聞くし、出願の割合で見ても増加傾向が続いている。特許庁2010年版年次報告書で見ても、出願全体に占める部分意匠の出願件数割合は、2005年に22.6%、2006年に23.8%、2007年に25.6%、2008年に27.1%、2009年に28.1%と着実に割合が増加傾向を示しており、当該制度の有用性を窺い知ることができる。

◇このように非常に便利で人気の制度であるが、先後願関係、類否判断等がかなり複雑になったというのを強く実感する。

◇部分意匠における類否判断手法とは何かについては常に議論となるとされる。破線等で表された部分(権利要求範囲外)が、実線部分(部分意匠権要求範囲)に与える影響を大きく見るか小さく見るかで結論を左右した事件である百選等でも取上げられ有名な「コンパクト事件」を簡単に見てみたい。

〔コンパクト事件〕
知財高裁平成17年4月13日判決
平成17年(行ケ)第10227号
審決取消請求事件
請求棄却
意匠法10条1項、2条1項

◇本件は、意匠に係る物品を「コンパクト」とし、平成13年3月22日に関連意匠として意匠登録出願(意願2001-7969号)した本願意匠(部分意匠)が、本意匠(部分意匠)に類似するものではなく、意匠法10条1項に該当しないから、意匠登録を受けることができないとした原査定を維持する審決(不服2003-5705号)を不服とする審決取消訴訟である。本件は、侵害事件ではなく、関連意匠での類否判断が問題となり、同一出願人が類似すると考えて出願した2つの部分意匠が類似しないので関連意匠として登録を受けられなかった事案である。

◇本判決では、部分意匠の類否判断での破線部分の解釈が争われた。裁判所は、実線部分の形態はすなわち部分意匠の形態であり、その形態が何に起因しているか否かを問わず、部分意匠自体の形態であることに違いはなく、物品の部分の特徴を示すものであることに変わりはないのであるから、これを評価の対象から捨象したり、特別に低く評価することはできないものといわざるを得ないなどと判断し、対比される両意匠は互いに類似しないと判断している。

◇本件のような場合は、独立の意匠として登録を得ることも考えられるが、その場合、上蓋が三角形状や五角形状など考え得るものを種々出願しておかなければ、その独創的な凸部集合体を上蓋に敷き詰めたというデザイン・コンセプトは完全には保護し得ないことになるのではないであろうか。(當間)

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